前回は、スループットによる「最適生産ミックス」のケーススタディーについて書きました。今回は、スループットによる「生産ラインでの評価」について書いてみます。

スループット会計による生産ラインでの評価

TOCでは、下記の2つの指標にフォーカスすることによって、「企業は正しい方向へ進むことができる」と主張しています。

1.TDD:スループット・ダラー・デイズ

・この指標は、顧客への信頼性を評価するものです。

<計算式> 納期遅れ件数に損失金額をかけたもの
TDD = 納期遅れオーダー金額 × 遅延日数

2.IDD:インベントリー・ダラー・デイズ

・この指標は、生産工程の効率性を評価するものです。

<計算式> 企業内の在庫日数に購入価格をかけたもの
IDD = 原材料の購入価格 × 滞留日数

しかし、この計算式に合わせ金額を出すと、とんでもなく大きな金額になることがあります。そのため日本の企業では、「イメージに合わない」ということで、あまり使われていません。

※ 私としては、企業の実力を示す指標として一度、算出してみる価値はあると思います。

では、この2つの指標以外に、何を使って評価をしているのか?ということですが、それは、T:スループット、I:仕掛在庫、OE:業務費用の3つの指標と、NP:純利益です。

T = スループット(Throughput) OE = 業務費用(Operating Expense) I = 在庫(Inventory)
NP = 純利益(Net Profit)

T:スループット(Throughput)

販売を通して生み出されたお金(あくまでも販売を通してであり、生産したではない)
= 販売価格 - その中に含まれている材料の購入価格
※ 販売を評価する

I:仕掛在庫(Inventory)

売る目的で購入した材料の購入額
= 原材料・仕掛り・製品在庫の中に含まれる材料の購入金額
※ 加工で付加される価値は含めない

OE:業務費用(Operating Expense)

I(仕掛在庫)をT(スループット)に変換するために、使われたお金
= I を T に変換するために実際に使われたお金
※ 人件費は固定費とみなす

NP:ネット プロフィット(Net Profit)

純利益
= T(スループット) - OE(業務費用)

スループットによる判断

単位原価は存在しない(業務費用を個別に配布しない)

儲かる、儲からない、の判断基準
  1. 判断基準(スループット=売上-材料費)
    儲かる = スループットの総合計 > 業務費用
    儲からない = スループットの総合計 < 業務費用
  2. 手不足状態と手余り状態
    ・手不足状態(需要>供給)の場合
    儲かる = スループットの増分 > 業務費用の増分
    儲からない = スループットの増分 < 業務費用の増分
    ・手余り状態(需要<供給)の場合
    儲かる = スループットの増分 > 0(ゼロ)または、業務費用の増分
    儲からない = スループットの増分 < 0(ゼロ)または、業務費用の増分
  3. プロダクトミックス(最適生産ミックス)の考え方
    ・利益速度を考える
    制約工程での単位時間当たりの、スループット最大化を図る

スループット総合指標

T/I : 在庫がスループットに変換される効率(システム内を材料が流れるスピード)

T/OE : 全体の生産性(1円の費用を使って獲得した金額)

T,I,OE,T/I,T/OEを使うことによる利点
  1. 生産の意思決定が、販売に結びついている。
  2. 原材料がキャッシュに変わるスピードが早くなる。
  3. 管理者が使う費用の全てを、網羅している
  4. 個別最適化を止めさせ、全体最適化を助長する。
  5. 意思決定と行動を「お金を儲ける」ことに、確実に結びつける。

TOCスループットでは、1個当たりの利益で判断する(標準原価システム)のではなく、時間当たりの利益で判断します。

有限の時間(1年=60分×24時間×365日)の中で、如何に最高の利益を得るかを考えます。

スループットの入門編については以上で終了しますが、最後に、不良率改善、稼働率改善、段取り改善の3つについて、演習問題を出しておきますので、興味をお持ちの方は、チャレンジしてみてください。

《 演習問題 》

1.不良率改善の問題
<工程フロー>

材料投入 → 設備A → 設備B → 設備C → 製品

<生産条件>
設備A 設備B 設備C
実際の加工能力 2,000個/日 1,500個/日 2,500個/日
不良率 5% 5% 5%
  • 製品1個の売値は1,500円、材料費を500円とする。
  • 検査は、各設備前で行って不良品を取り除いている。
  • 先頭の材料投入は、あらかじめ不良率を考慮して投入しているものとする。

問1.現在の1日の①獲得スループット②損失材料費③その差額は、それぞれいくらか?

問2.設備Aの不良率を改善して2%にした場合の①②③は、それぞれいくらか?

問3.設備Bの不良率を改善して2%にした場合の①②③は、それぞれいくらか?

問4.設備Cの不良率を改善して2%にした場合の①②③は、それぞれいくらか?

2.稼働率改善の問題
<工程フロー>

材料投入 → 設備A → 設備B → 設備C → 製品

<生産条件>
設備A 設備B 設備C
見かけの能力 100個/日 80個/日 120個/日
実際の能力 75個/日 64個/日 84個/日
設備稼働率 75% 80% 70%

・この製品1個のスループットは、10,000円とする。

問1.現在の1日の獲得スループットは、いくらか?

問2.設備Aの稼働率を80%に改善した場合の、1日の獲得スループットは、いくらか?

問3.設備Bの稼働率を85%に改善した場合の、1日の獲得スループットは、いくらか?

問4.設備Cの稼働率を75%に改善した場合の、1日の獲得スループットは、いくらか?

3.段取り改善の問題
<前提条件>
  • 製品Aの需要は、無限にあるとする。
  • 制約工程は、製品Aを生産するための時間として、10時間/週しか使えない。
  • 製品Aスループットは、1,000円/個とする。
  • 制約工程で製品Aを加工する時間は、2分/個である。
  • 加工ロットサイズは、100個である。
  • 加工ロットを変更するためには、20分/回の段取り時間が必要である。

問1.制約工程の時間当たりスループットは、いくらか?

問2.段取り時間を20分/回から、5分/回に改善した場合の、制約工程の時間当たり
スループットは、いくらか?

問3.問2の改善結果、週での利益はいくら増加するか?

以上、3つの演習問題です。

次回からは、いよいよ「思考プロセス」について、書いてみます。