今回からは、TOC理論での評価基準として利用される「スループット会計」について、覚えておきたい内容を書いて行きます。
「スループット会計」とは
TOCの目的は、「現在から将来に向かって儲け続けること」です。そして、この利益拡大のための評価尺度として使われるものが「スループット会計」です。
よって、
TOCの目的 = スループットの最大化
とも言えます。
TOC概論でも書きましたように、そもそもスループット会計とは、原価管理に使われる「標準会計」とは、利用目的や使われ方・使われる場面などが、全く違います。
しかし、会計と名前が付くことにより、どうしても標準会計と比較されてしまいます。
【標準原価計算とスループット計算】
下の図は、以前TOC概論で使ったものですが、見て解かるように、標準原価計算(標準会計)は、基本的に割勘計算であり、利益向上のための指標には適さないのです。
一方、スループット計算(スループット会計)は損得計算であるため、平等な評価をするには適しません。
そこで、この講座ではスループット会計ではなく、スループット計算と呼ぶことにします。
このように「標準原価計算」と「スループット計算」では、それぞれ役目が違うのですから、これらを比較することは間違っているのです。(それぞれに合った使い方をすべきです)
スループット計算は、「科学的ドンブリ勘定」と言われるように、物理学で証明される考え方を用い、目的に対しあまり重要でないところは、おおざっぱにまとめてみることをします。
例えば、利益の考え方ですが、「利益=入ってくるお金-出て行くお金」のように、
スループット計算では、利益=スループットの合計-業務費用の合計
※ (スループット=売上高-直接材料費)
※ 業務費用=(直接労務費+製造間接費+販売費+一般管理費)
標準原価計算での貢献利益では、貢献利益=売上高-変動費
変動費=直接労務費+製造間接費の一部
このように、標準原価計算での変動費には、製造間接費の一部が含まれるのに対し、スループット計算では、基本的に直接材料費だけが唯一の変動費になります。
この大きな違いは、対象とする期間にあります。
スループット計算では、比較的短期の利益を最大化することに的を絞っていますが、貢献利益では、比較的長い期間を基準に変動費を考えるからです。
パラダイムの違い
- 標準原価計算では、1個当りの利益で判断する。
- スループット計算では、時間当たりの利益で判断する。
スループット計算で使われる評価値は、
スループット (T:throughput)
→ 販売を通じて生み出されたお金(製造を通じてではない)
在庫 (I:inventory)→ 売る目的で購入した材料の金額(付加価値は含まない)
業務費用 (OE:operational expense)→ 在庫をスループットに変換するために使われたお金
意思決定・業績評価のためのスループットによる判断
1.単位原価は存在しない
(業務費用の個別の配賦はしない)
2.儲かる、儲からない、の判断基準
①判断基準(スループット=売上-材料費)
スループット総合計 > 業務費用 → 儲かる
スループット総合計 < 業務費用 → 儲からない②手不足状態と手余り状態
手不足状態 (需要 > 供給) :増分スループット > 増分業務費用 → 儲かる
手余り状態(需要 < 供給):増分スループット > 0(増分業務費用) → 儲かる
3.プロダクトミックスの考え方(利益速度を考える)
制約工程での単位時間あたりのスループット最大化を狙う
管理の力点
優先度 | 伝統的な管理 | 日本的管理(JIT) | TOCによる管理 |
1 | OE を下げる | I を下げる | T を上げる |
2 | I を下げる | T を上げる | I を下げる |
3 | T を上げる | OE を下げる | OE を維持する |
このようにTOCスループットでは、従来から行われてきた「出て行くお金を減らす」ことより、「入ってくるお金を増やす」ことを優先します。
次回は、スループット計算について、例を使って考えてみたいと思います。