前回は、スループット計算と標準原価計算について書きました。

今回は、この2つの計算の違いを、「ケーススタディ」により検証してみます。

スループット計算による「儲け」の考え方

まず、標準原価計算の儲けの考え方と、スループット計算の儲けの考え方の違いですが、

標準原価計算での儲けの考え方

  • 固定費を製品別に配布する。(直接人件費比例)
  • 単位コスト、単位利益を産出する。
  • 単位利益の最大化が、総利益の最大化につながるという前提である。
  • 棚卸には、固定費も配布する。(棚卸増で増益となる)

スループット計算での儲けの考え方

  • スループット(売上-材料費)を増やす。(上限が無い)
  • 棚卸資産(総投資)を減らす。(ゼロ以下には出来ない)
  • 固定費(材料費以外)を減らす。(ゼロ以下には出来ない)

標準原価計算とスループット計算での利益の考え方の違い

この図を見ると、標準原価計算での総利益と、スループット計算での総利益は同じに見えますが、前にも述べましたように対象とする期間が違うので、結果は異なります。

なぜ対象となる期間が違うと結果が変わるのか?

それは、標準原価計算では、半年や一年先までの固定費を配布するのに対し、スループットは数週間や一ヶ月の範囲で実際に使われたお金に対し、計算するためです。

では、実際にケーススタディを使って考えて見ましょう。

【ケーススタディ-1】

流行らないうどん屋と、大繁盛しているうどん屋の損得計算

<状況>

  • 流行らないうどん屋では、閉店時にいつもうどんが残っています。
  • 大繁盛しているうどん屋では、閉店前にはいつもうどんは売り切れています。
  • (固定費は、毎日同じ量だけ作っているので、変わらないものとします。)
原価構成
項目 流行らないうどん屋 大繁盛のうどん屋
単価 ¥400 ¥400
材料費 ¥150 ¥150
人件費 ¥100 ¥100
償却費、その他の固定費 ¥70 ¥70
利益 ¥80 ¥80
(状態) (いつも売れ残る) (いつも完売)
問題

問題1.
それぞれのうどん屋の店員が出来上がったうどんを、誤ってこぼした時の損はいくらか?

問題2.
問題1で、店じまいの後、残ったうどんを捨てていた時の損はいくらか?

解答

問題1.

  • 標準原価計算では、どちらのうどん屋も、「材料費+人件費+償却費・そのたの固定費¥320」
    の製造原価が、失われたとなります。(これは、不良損金と同じですよね)
  • スループット計算では、流行らないうどん屋では、また作り直せばよいのですから「材料費=¥150」が失われたとなります。(人件費や償却費・その他の固定費は、一杯多くに作っても増えないから)
  • 大繁盛のうどん屋では、入ってくるハズの「単価=¥400」が全て失われた。(常に、完売状態のため、追加は作れず一杯分のお金が入ってこない)

問題2.

  • 標準原価計算では、問題1と同様に、どちらのうどん屋も「材料費+人件費+償却費・その他の固定費=¥320」の製造原価が、失われたことになります。
  • スループット計算では、流行らないうどん屋は、最後に捨ててしまっているうどんを一杯分製品にしたということで、材料費も損をしていないことになり、「損=¥0」となります。
流行らないうどん屋 大繁盛のうどん屋
問題1 材料費分だけ=¥150 入ってくるはずのお金=¥400
問題2 何も損をしない=¥0 いつも完売なので全額=¥400

このように損得計算では、手あまり状態(いつも売れ残る)と、手不足状態(いつも完売)で、結果が変わります。

※ スループット計算では、可変要素のみを念頭に意思決定をします。

【ケーススタディ-2】

・最適製品ミックスの問題

問題

下図のような生産工程を持つ、製品Pと製品Qの2種類の製品を、1ヶ月生産する時の最適な生産量(利益が最大になる)を計算しなさい。

生産工程手順

原材料A → 工程1(切削) → 工程3(研磨) → 工程5(塗装) → 中間材A
加工時間     15分/個      45分/個      10分/個

原材料B → 工程2(孔明) → 工程4(溝切) → 工程6(仕上) → 中間材B
加工時間     25分/個      15分/個      25分/個

原材料C → 工程1(切削) → 工程4(溝切) → 工程5(塗装) → 中間材C
加工時間     20分/個      40分/個      10分/個

製品P : 工程7(組立) ※ 中間材A(1個)と中間材B(1個)で組立てる。
加工時間   20分/個

製品Q : 工程7(組立) ※ 中間材B(1個)と中間材C(1個)で組立てる。
加工時間    5分/個

前提条件

・各資源の使用可能な作業時間は、8時間×60分×20日=9,600分/月とする。
・業務費用は、1,000万円/月とする。
・市場の要求量は、製品Pが最大で200個まで製品Qが170個まで売れます。

物流工程図

スループットケーススタディー用「物流工程図」

解答例1) 間違った答え!

「要求量全てを生産する」→製品P:200個、製品Q:170個で、利益は1,394万円である。

結果の検証
製品P 製品Q
最大販売可能量 200個 170個
生産量 200個 170個
販売価格 9万円 12万円
原材料費 4万円 3万8千円
単位当たりスループット 5万円 8万2千円
スループット合計 =9万円×200個(売上高)
ー3万円×200個(Aの原材料費)
ー1万円×200個(Bの原材料費)
=1,000万円
=12万円×170個(売上高)
ー2万8千円×170個(Cの原材料費)
ー1万円×170個(Bの原材料費)
=1,394万円

利益=スループット(2,394万円)-業務費用(1,000万円)=1,394万円

何も考えず「要求があるから全て生産しろ」という解答は、実際の企業の中でも良く聞きますが、いざ、この量を生産しようとすると、生産ラインでは大問題が発生します。

なぜならば、溝切工程の生産時間が足らないのです。

そうです!実はこの溝切工程が制約工程なのです。

結論

・最大要求量全てを生産するということは、実行不可能な決断なのです。

もちろん、作業時間を増やしたりすれば可能になりますが、今回は方針制約として、使用可能時間を増やせない!ということで考えましょう。

では、「製品Pと製品Qはそれぞれ何個作ればよいのでしょうか?」

この解答は、次回のTOC講座で説明します。

※ 興味のある方は、次回までの間に考えてみてください。