前回までで、DBR構築の標準的な手順を示しました。

今回は、DBRの応用(ダブル制約・部品調達など)について紹介します。

生産ラインの分類

まず最初に、生産ラインの基本形態を分類しますと、 I型を基本に、V型・A型・T型の4分類に分かれます。

V-A-T分類

基本的な生産形態の分類(V-A-T分類)

I型 :原材料1つに対し、完成品1つが作れれる生産形態
(ネジの加工工場・陶磁器生産工場など)
V型:少数の部品・原材料から、複数の完成品が作られる生産形態
(鉄鋼工場・繊維工場・飲料水生産工場など)
A型:複数の部品・原材料から、少数の製品が作られる生産形態
(大型コンピューター生産工場・造船や航空機製造工場など)
T型:複数の部品・原材料から、複数の完成品が作られる生産形態
(家電製品生産工場・自動車生産工場・お弁当生産会社など)

V-A-T分類
分類 特徴 改善の着眼点
I型 ・全てのプロセスの基本となる。 ・シンプルな管理になっているか?
V型 ・設備集約的なプロセスとなっている。
・段取り時間が長い。
・生産プロセスの途中に、中間材の倉庫がある。
・生産効率を上げるため、時々納期が後回しになる。
・まとめ生産による、遊休設備が多い。
・生産工程の途中に、汎用品を在庫するための倉庫がある。
・ロットサイズを小さく出来ないか?
・次月品や見込み生産品が多くないか?
・納期に合わせた生産を行っているか?
・容器が一杯になるまで生産していないか?
・欠品や過剰在庫が頻発していないか?
・汎用品の回転率は良いか?
A型 ・作業者(人)が中心となる作業工程が多い。
・生産工程の一部を外注などに委託していることが多い。
・生産計画の良し悪しが生産に大きく影響する。
・受注納期が比較的短い。
・大きな生産計画システム(ERP,MRP)が導入されている。
・在庫補填的なオーダーが多い。
・部品点数が多い。
・コンベアーラインがある。
・納期遵守率が悪化していないか?
・欠品と過剰在庫に悩まされていないか?
・計画以上の生産を行っていないか?
・作業者のスキルにより生産能力が左右されていないか?
・生産計画の変更が多発していないか?
・外注先や協力工場のための生産を行っていないか?
・輸送コストを下げるためにリードタイムを犠牲にしていないか?
・必要以上の生産効率アップを強いられていないか?
・部品不良が多発していないか?
T型 ・ユニット的な中間製品が存在する。
・最終工程(検査、梱包)に多くの作業者がいる。
・見込み生産品が多い。
・生産工程の途中に、半製品倉庫がある。
・生産計画が前工程と後工程で独立して作られている。
・欠品と過剰在庫に悩まされていないか?
・手直し、手戻りが多発していないか?
・特急品が頻発していないか?
・部品や半製品、製品などの流用が頻発していないか?
・大きな棚卸差異が常に発生していないか?
・納期遵守率が悪くないか?

※ 生産する製品やプロセスを分類することで、その生産特性を生かしたDBRの構築が可能になります。

V型やT型の生産プロセスでは、

  • 汎用品と呼ばれる中間製品が存在し、この直接オーダーの無い製品の生産が、「欠品」や「過剰在庫」、「リードタイムの長期化」などの問題を引き起こしていることが多いようです。
  • また、設備集約的な生産プロセスのため、一度に多くのものを処理することで効率化を図る傾向にあり、段取り時間短縮への取組みもなかなか進まないようです。

A型の生産プロセスでは、

  • 多くの場合、部品調達が上手く行けば、全て上手く行くという考え方が基本的にあり、原因が外部の問題であるということから、改善活動がなかなか進まないようです。
  • また、人海戦術による問題への対処が行われるため、根本原因へのアプローチが進まないのも、A型の特徴のようです。

DBRの応用例

1.ダブルネックへの応用

ダブルネックとは、製品を生産するプロセスにおいて、制約工程(ネック工程)が2つ存在するというものです。

ダブルネック工程

このような場合、理論的には2つのネック工程が存在しているように見えますが、基本的には、生産プロセスで前になる工程の能力で生産ラインの能力は決まってしまいます。

なぜならば、前工程を通過しないと後工程に物は流れないため、後ろにあるネック工程には、前にあるネック工程の能力以上のものは流れないからです。

そのためダブルネックの場合でも、前にあるネック工程を制約工程(ネック工程)として標準的なDBRを構築すればよいのです。

なお、どうしてもダブルネックでのDBRを構築したい場合は、主制約副制約に分けDBRを構築します。

ダブルネックDBR

ダブルネックDBRでは、あくまでも主制約となるネック工程が全体をコントロールします。

副制約は、主制約の能力ダウンにならない範囲で機能させるのが基本です。

また、前にあるネック工程に比べ、後ろにあるネック工程の方が少し能力が低い場合や、前にある制約工程がネックではないが、生産順序や方法などでネックとなりやすい工程(熱処理炉などのバッチ工程)である場合は、多重のDBRを構築することもあります。

2.組立ライン(A型・T型)への応用

組立ラインでは、部品調達の良し悪しが生産を大きく左右します。

そのため、途中工程で部品やユニットが合流する工程では、組立バッファを利用することがあります。

組立バッファとは、部品の欠品から組立工程の生産を守るためのバッファです。

組立バッファ付きDBR

ただし、組立バッファは一時的な対応であり、基本的には調達リードタイムの短縮を進めることで、無くす方向で進めるべきです。

3.制約が市場にある場合への応用

制約が市場にあるとは、受注量が生産能力より少ない(工場内にネックが無い)場合を指します。

市場制約の状況

この様な場合は、市場の要求のフレに如何に対応して行くか(失注を無くすか)が重要です。

そのため、変動する需要をドラムとし、今ある生産能力で対応できるだけのバッファを置き、
顧客の要求そのものをロープとして、DBRの仕組みを構築します。

S-DBR(市場が制約の時のDBR)

このシンプルなDBRの仕組みを、「S-DBR」と呼びます。

そしてS-DBRは、全てのDBRの最終形態となります。

なぜならば、継続的改善の5ステップを進めることで、最終的には市場が制約となるからです。

ここまででDBRの形は出来上がりましたが、最後に魂(コントロールする仕組み)を入れねばなりません。

次回は、このDBRを運用するための管理方法や計画作りについて書きます。