今回も引き続き、TOCの基礎知識として知っておきたい、代表的な用語について書きます。
TOCの基礎でよく出てくる用語
【全体最適】
・全体最適とは、営利企業であれば企業の業績を高めるために、各部署がそれぞれ自部署の生産性向上や効率向上など、個別の指標を上げることにとらわれず、企業全体の業績向上に向け考え・行動することを意味します。
・企業の能力は、ごく限られた一部の部署(制約工程)の能力によって決められているため、制約工程の能力向上にフォーカスした改善に集中することで、企業の業績を高めるという行動を指します。
(極端に言えば、制約工程以外の工程の業績が悪化しても、企業全体の業績が良くなるのであれば、その改善を実施するべきであるという考え方です。)
・全体最適の考え方は、よく「鎖の輪の強度を上げる」例で解説されています。
※ TOCでは、この制約条件にフォーカスした活動こそが、企業利益の向上に貢献する活動であると言っています。
【部分最適】
・部分最適とは、企業の全体の利益を増やすのではなく、自分の部署の評価を良くするために、各部門がバラバラに自分の部署の評価(生産性や効率など)を上げようとする行動を指します。
この行動は、従来から行われてきた標準原価計算によりもたらされるもので、各部門の改善効果をそれぞれ別々に評価し、その結果を合計することで企業全体の効果が計れると考えるものです。
しかし、部分最適の改善効果は、その部署が制約工程(ネック工程)でない限り、企業全体の改善効果としてはあまり表れません。
・部分最適の考え方は、鎖の輪の強度を上げるために鎖の輪を太くすることで変化する「鎖の重さ」を例に、解説されています。
※ TOCでは、この部分最適の行動を引き起こす原因は、間違った評価基準によるものであると言っています。(この間違った評価基準は、スループット会計や思考プロセスにより、見直すことが必要です)
【制約条件】 Constraints
・制約条件とは、あるシステムが目的を達成するために、より高い機能へレベルアップしようとすることを、妨げる要因のことである。
・営利企業で例えるならば、営利企業の共通目的である「現在から将来に向かって企業が儲け続ける」ことを、制限している要因(物理的要因・方針的要因など)が、制約条件となります。
・制約条件には、物理制約・市場制約・方針制約の3つがある。
【物理制約】
・物理制約とは、制約条件の中でも物理的(ハード)なものによる制約をいい、設備・道具・人・物などが原因で起きる制約を指します。
・工場の生産ラインで例えるならば、顧客の需要に対し、設備能力や作業人員などの物理的な能力不足により、需要を満足させることが出来ない状態を指します。(物理制約=需要>供給の状態)
物理制約の特徴
・物理的で有形的なものであるため、制約として認識することが比較的容易である。
・理論上(計算上)の能力を100%発揮していることは少なく、故障や段取りなど多くの原因により、その能力を十分に発揮できていない場合が多い。
・物理制約を引き起こしている原因を探ると、方針制約がその引き金になっている場合が多い。
物理制約への主な対策
・能力上の制約であれば、制約工程にフォーカスした作業時間の短縮や段取り時間の短縮・品質改善などの無駄の排除や、設備や作業員の補充などの物理的な能力の増強といった、従来から行われてきた対処法が中心となります。
・物理制約の解消手順としては、「継続的改善の5ステップ」により制約の解消を図ります。
【市場制約】
・市場制約は、基本的に物理制約の中に含まれますが、企業の中にある物理的な制約ではなく、企業の外(顧客・業界など)の制約を指します。
・生産工場で例えるならば、供給能力(設備能力・作業人員など)は十分にあるが、需要が少ない(受注が少ない)状態を指します。(市場制約=需要<供給の状態)
市場制約の特徴
・市場制約が起きている状況では、工場内のあちこちで手余り状態が発生し、受注の無いものをまとめて生産するなど「見た目の利益」を追求するため、当面売れない製品の在庫の山ができます。
・製品については、個別原価の見直しによる赤字製品の生産中止や、海外などの価格の安いものを買い入れ販売するなどが頻繁に行われ、社内で生産する製品が更に減り、赤字製品が更に増えるという悪循環を繰り返します。
市場制約への主な対策
・市場制約への対策としては、市場競争上の制約であれば、リードタイムの短縮・納期遵守率向上・価格政策などの企業戦略の見直しを行います。
・市場の拡大が問題であれば、既存市場の拡販対策(クロスSWOT分析)や新市場の開拓(ブルーオーシャン戦略)などを行います。
・市場制約は、物理制約に比べ方針制約がその原因となっていることが多く、間違った行動の原因や仮定を洗い出し、正しい方向に変える必要があります。
・これらの対策を確実に行うために「思考プロセス」を使い、現在から将来に向かって儲け続けるための戦略・戦術を作りを行います。
【方針制約】
・方針制約は、会社のルールや決まり・習慣・評価基準など、本来「正しいもの」「守らなければならないもの」として存在しています。しかし、時代の変化や環境の変化などにより、以前は正しかったルールや決まりが、現在では正しい行動を出来なくしたり、抑制されたりしている状態を指します。
・工場で例えるならば、顧客要求が無いにもかかわらず、評価基準となっている稼働率が下がってしまうという理由から、解っていても当面売れる予定の無いものを生産したり、受注量が少ないため数ヶ月分をまとめて生産するなどの行動を引き起こします。(方針制約=正しい行動が出来ない状態)
方針制約の特徴
・方針制約が起きている状況では、正しい行動が何か解っていても、正しい行動がとれません。
・多くの場合、常に正しいものとして認識されているため、その存在に気づくことが少ない。
・目に見えない制約であり、風土・習慣などから起きることもあることから、3つの制約の中では解決が一番難しい制約です。
※ 制約は、それぞれが単体で発生することは少なく、ほとんどの場合いくつかの制約の複合体として表れます。
方針制約への主な対策
・方針上の制約では、間違った方針の変更や判断基準などを、教育などによりパラダイムシフトさせると共に、評価方法の変更などを行います。
・思考プロセスを中心とした制約の洗い出しと対処法及び、スループットによる評価作りを行います。
・方針制約は、物理制約や市場制約などを引き起こすキッカケとなる、根本原因となっていることが多く、「思考プロセス」により問題の洗い出しや対応策の策定を行います。