前回は、DBR導入手順-3で継続的改善の5ステップ②「制約条件の徹底活用」について書きました。
今回は、DBR導入手順-4として継続的改善の5ステップの③「非制約条件を制約条件に従わせる」について書きます。
非制約条件 を 制約条件に従わせる
ここで言う「非制約条件」とは、制約条件以外の全てを指します。
まずこのステップでは、制約条件の解消に直接関連しない活動を抑制すると共に、制約条件の解消を妨げる行動・ルールを排除します。
制約条件の解消に直接関係しない活動、制約条件の解消を妨げる行動・ルールとは、
・全社活動として行っている効率向上運動での、制約工程以外の効率UPに関する活動
・制約設備や制約作業に関係しない改善活動(ただしスループット向上につながる活動は除く)
・全社的な活動(工場や工程を同じレベルで比較し、評価する活動)
・生産量を増やすことによる、見た目だけの原価低減活動(全体最適の視点からは効果のない活動)
・固定費の減らない人員削減活動(ただ暇な人が増えるだけの人員削減活動)
などを指します。
このように、ステップ3「非制約条件を制約条件に従わせる」では、制約条件が最大のアウトプットを引出すことの出来るような環境を整備することが重要なのです。
そして前にも書きましたように、このステップ3が、DBR導入を成功させるために重要な部分(レバレッジポイント)となります。
なぜならば、このステップ3では「多くの方針制約」が実行を阻んでくるからです。
そして今まで、多くの企業がDBRの導入にチャレンジするなかで、この方針制約を解消できず、挫折してしまうというのが現実です。
このステップ3で、障害となる方針制約のいくつかを書きますと、
【ステップ3で障害となる方針制約の例】
・在庫量が減ると利益が減るから、投入を止めることは出来ない。
・今まで頑張ってきた時間生産性の指標が、非制約工程では下がるので上から怒られる。
・制約設備以外の稼働率が下がれば、利益が減ってしまう。
・生産効率を上げよ!との工場方針があるので、人や設備を止められない。
・自分の工程の作業が大変になったり、増えるのは損だ。
・外注先や協力工場からクレーム(もっと仕事をくれ)が入る。
・他工程への応援は、品質管理上良くない。
・制約工程の前にバッファ(仕掛り)を置くのは、在庫削減活動に反する。
・いままでも全体最適の考え方でやってきているから、やり方を変える必要が無い。
また多くの場合、耳にタコが出来るほど言われ、必死になって取組んできた改善活動を急に、「その指標は下がっても良い」と言われてしまう訳ですから、今まで頑張っていた部門であればあるほど抵抗は大きくなります。
このような方針制約を打破するためには、
・今までの制約を打ち破るだけのパワー
・上司や仲間を説得するだけの正しい知識
・中途半端な状況で妥協しない信念
・一度や二度失敗してもあきらめない根気
・始めて取組むものに対するチャレンジ精神と度胸
・みんなを引っ張って行くための信望
・やってみせることの出来る技術
などが必要となります。
そしてそのため、上下関係(上司や先輩など)や利害関係(外注や協力会社など)に、あまり影響を受けない外部の指導者が入ると早く、的確に処理できるようです。
【外部の指導者】
・TOCを良く理解している本社の人間(直接製造に関与しない発言力を持った人)
・外部のTOCコンサルタント
などを入れることが有効です。
更にステップ3では、正しい評価基準作り(基準設定)が重要です。
活動で使われる評価基準の一例
制約工程 | 非制約工程 | 全体 |
---|---|---|
・制約設備や制約作業の状況 ・リードタイム ・仕掛り状況 ・歩留り、直行率 ・生産計画遂行状況 |
・リードタイム ・仕掛り状況 ・計画遂行状況 |
・スループット ・仕掛り在庫の推移 ・リードタイム ・納期遵守率 ・売上高 |
特に、非制約工程のリードタイムの短縮は、全体に与える効果として非常に大きなものになります。
なお、このステップではDBR構築のために必要な3番目の機能、「ロープ」を作成します。
【ロープ】
ロープとは、 生産ラインの状況に合わせて、材料の投入をコントロールする機能をいいます。
この機能は、制約条件工程の能力を他の工程の揺らぎから守るためにも必要となります。
制約工程前の仕掛り量が、必要以上に増加した場合は、投入を止めたり、減らしたりします。
必要以上に減少した場合は、投入量を増やしたり、前工程の生産スピードUPを行います。
なお、この投入コントロールにより、制約工程以外の工程でも多くのムダが削減されます。
ステップ3の開始は、ステップ2が終わってからではなく、ステップ2とほぼ同時にスタートさせます。
なぜならば、投入量の正しいコントロールが出来ないと、制約工程が他工程のトラブルなどにより影響を受けて、生産能力を落としてしまうからです。(作業すべき材料が無い、まとまって製品が届く、作業順序が変わってしまうなど)
そして標準的なDBRの構築は、ここまでで完了です。
ここまででDBR構築のための基本は、理解していただけたでしょうか?
しかし実際の生産ラインでは、このような単純なライン形態をしていないのが通常です。
例えば、
・投入工程が一箇所だけでなく複数ある。
・制約工程が1つではなく2つ以上ある。
・部品組みやユニット品などがあり、ラインコントロールが難しい。
・汎用部品があり、必要量を算出しずらい。
など、生産製品・生産ラインの違いで頭を悩ませます。
そこで次回は、DBRの応用について書きます。