今回はDBRに関する用語や、DBR構築の際に使われる用語について、まとめてみます。
TOC DBRで使われる用語
【DBR】 Drum Buffer Rope (ドラム・バッファ・ロープ)
・TOC手法の中でも代表的な生産管理の方法論で、繰り返し生産型の製品を生産するラインや工場に適用される生産管理の方法。(著書「ザ・ゴール」で、ボウイスカウトの行進を例として解説されている)
<DBRのイメージ>
D:Drum(ドラム) ・・・ 工場全体の作業ペース(1日の生産量など)。
B:Buffer(バッファ) ・・・ ネック工程を、前工程の生産のフレから守るための保護時間。
R:Rope(ロープ) ・・・ ネック工程前の仕掛を、必要以上に増やさないための信号機能。
注.
ドラムは、ネック工程の後工程にどれ位の量が流れるかを、事前に知ることにも役立。
バッファは、仕掛りの状況を見ることで、工場の生産状況を一目で知るためにも役立。
ロープは、設定条件により仕掛り在庫の安定と、リードタイムを保障する役割を持つ。
<基本となる考え>
- 生産ラインの能力は、ネック工程の能力以上増えない。
- ネック工程以外の効率をいくら上げても、生産能力は変わらない。
- ネック工程が、何かの要因で停止した時間は二度と取り戻せない。
- 生産ラインの中の変動性(生産のフレ)は、減らせても無くすことは出来ない(ゼロにはできない)。
- 生産ラインの能力は、ネック工程の能力により決められる。
- ロット生産を行っているラインのリードタイムは、殆ど(95%以上)が待ち時間である。
【S-DBR】 Simplifed Drum Buffer Rope (シンプル・DBR)
・DBRのように、生産ラインの中にネック工程が無いような(需要<生産能力)、顧客からの需要が生産能力を下回るような状態の時、適用される生産管理の方法。
・S-DBRは、制約が工場の中ではなく市場であると位置付け、市場の要求をドラムとし、その前に在庫という形でバッファを設け、市場の要求に応じ投入を行うロープを繋ぐ形で運用される。
<基本となる考え方>
- ネック工程(ネック設備)のような、物理的制約はいずれ解消(設備投資や改善により)できるため、最終的には顧客からの注文(受注)が制約となる。
- 顧客の注文(受注)が制約になる場合、ほとんどが物理的な問題ではなく、方針による制約がその原因となっていることが多い。
- 生産能力に余裕があるのであれば、効率を意識した生産を行うのではなく、顧客(受注)を意識した生産を行うべきである。
- ネック工程以外の指標は、「如何にモノを早く流すか」に焦点を置くべきである。
【継続的改善の5ステップ】
・TOCにおける改善ステップで、物理的制約による問題を解消するために活用される。また、DBR構築の手順でもある。
1.制約条件を特定する。
・利益を最大化するための障害となる物理的制約(生産能力の場合はネック工程)を、特定すること。
2.制約条件を徹底活用する。
・特定された物理的制約の能力を、大きな投資をせずに徹底的に活用する(働かせる)こと。
3.制約条件以外を制約条件に従わせる。
・制約条件の能力を最大限に発揮させるために、制約条件以外が制約条件の能力を最大限発揮させるために活動すること。また、制約条件に悪影響が出るような活動をさせないこと。
4.制約条件を強化する。
・ステップ1~ステップ3までを徹底的に実施しても、物理的制約が解消できない場合に、投資を伴った能力増強策を打つこと。
5.惰性に注意しながら、最初から繰り返す。
・ステップ4まで実行すると、今まであった物理制約が解消され、新たに別のところに物理制約(市場制約に移る可能性もある)が生まれるため、改めてステップ1から始めること。
・惰性に注意しながらとは、今まで実施してきたステップの中で決めた良いルールや考え方が、元に戻ってしまわないようにしながらということ。
【ネック工程】 ボトルネック工程
・現在ある需要量を満たすには生産能力が足らない工程(複数ある場合もある)のことをいいますが、一般的には、工場(生産ライン)の中で、一番能力(生産能力)の低い工程のことを指して言います。
<ボトルネックのイメージ>
<基本的な考え方>
- 企業が生産活動(受注~出荷)を行う際に、そのステップの中で生産能力を決めている工程のこと。
- 一般的には、受注量>生産能力の状態で発生する。
- 生産ラインの中にネック工程が無い場合は、市場(受注)がネック工程となる。(受注<生産能力)
【制約工程】 CCR(Capacity Constrained Resource)
・通常何も問題が起きなければ能力的な問題は発生しないが、注意深く管理していないと工場全体の生産能力に悪影響を及ぼす工程を指して言います。(多くの場合、ボトルネック工程=制約工程と考えるが、ボトルネック工程≠制約工程である場合がある)
<制約条件となりうる工程の例>
- 熱処理炉や焼鈍炉などのバッチ設備が中心の工程
- 外注工程や購買工程(部品調達工程)など、外部の影響で左右される工程
- 営業や開発などの能力を正確に把握できない工程
- 検査工程のような、作業者のスキルに大きく左右される工程
【従属性】
・従属性とは、工場などの生産工程において、前の工程の作業が終わっていなければ、次の工程の作業ができないなど、順序を守らなければ目的を達成できない関係のこと。
<従属性の例>
- 荒加工をしてから、仕上げ加工を行う。
- メッキをする前に、表面処理を行う。
- 鋳物を鋳造してから、湯口切断を行う。
- 部品が全て揃ってから、総組立を行う。
<従属性の特徴>
- 従属性は、変動性と合わさることで遅れの伝播を引き起こす。
- もの作りの世界では、従属性をゼロにすることはできない。
<従属性を回避する方法>
- 作業法案を変更する。(製品構造を変更し、加工部分を成型で作り上げるなど)
- 従属性を小さくする。(部品が全て揃わなくても、ユニットレベルで組立するなど)
- 作業順序の変更を行う。(検査作業を、工程内で検査する部分と後で検査する部分に分けるなど)
【変動性】
・変動性とは、生産設備の生産サイクルなどの統計的な変動や、いつ起こるか分からないトラブルなどの突発的な変動などのこと。
<変動性の例>
統計的な変動
- 管理された品質内での微細欠陥の数。
- 手作業による作業時間の変動。
- 脱着のみが作業者による、半自動機のサイクル。
ランダムな変動
- 顧客都合による、突然の注文キャンセル。
- 従業員の急な都合による休み。
- 操作ミスによる設備の故障。
<変動性の特徴>
- 変動性は、従属性により増幅される。(マイナスの変動の累積が起こる)
- 変動性は、小さくしたり減らすことは出来ても、ゼロにすることはできない。
<変動性を抑制する方法>
- 変動性を小さくする。(作業手順書や作業標準書の整備による、作業者格差の抑制)
- 変動性の発生率を下げる。(予防保全・予知保全などによる、先手管理の実施)
【遅れの伝播】
・従属性と変動性をもつ生産ラインでは、前工程の作業の進み(予定より早く終了する)は後工程にあまり伝わらず(後工程がその分早く着手出来ることは少なく)、遅れ(予定より遅く終了する)のみが後工程に伝わる現象を指します。
<遅れの伝播の特徴>
- 工程数が多ければ多いほど、遅れは増幅されていく。
- 直列工程でも、並列工程でも、遅れの伝播は発生する。
<遅れの伝播からスループットを守る方法>
- バッファー(必要部署の前に配置された時間的余裕)により、遅れの伝播を吸収する。
- 保護能力(制約工程以外が持つべき能力的余裕)により、遅れの挽回を行う。
【バッファー】
・バッファーとは、「いつ起こるか分からないが、必ず起こる障害」から、スループットを守るために持つべき時間の余裕です。
<三つのバッファー>
- 一つ目は、制約工程の前工程で生産の揺らぎにより、制約工程の材切れ(生産停止)が起きないように、制約工程の前に持つべき時間の余裕です。
- 二つ目は、全工程の生産の揺らぎにより、出荷納期が遅れることがないように、出荷納期の前に持つべき時間の余裕です。
- 三つ目は、部材の到着遅れにより組立工程の生産が遅れないように、組立工程の前に持つべき時間の余裕です。(ただし、上記二つのバッファーによる保護が十分である場合は持ちません)
<バッファーの特徴>
- バッファーを長く持てば、どんな障害(生産の揺らぎ)にも対処できるが、長く持ちすぎるとリードタイムが長くなり、仕掛り在庫が増え、キャッシュフローが悪化する。
- バッファーが短すぎれば、リードタイムは短くなり、仕掛り在庫は少なくなるが、制約工程の材切れが発生し、スループット(出来高)が失われる。
【保護能力】
・保護能力とは、制約条件の能力及び出荷納期を守るために、制約工程以外が持つべき能力の余裕のことを言い、制約工程の前と後ろで目的が違います。
<二つの保護能力>
- 一つ目は、制約工程の前工程の揺らぎ(トラブルや生産の遅れなど)から、制約工程を保護するために(材料切れによる停止が起きないように)、制約工程より前の工程が持つべき能力の余裕です。
- 二つ目は、全工程の生産の揺らぎから出荷納期を保護するために、制約工程以外の工程で持つべき能力の余裕です。
<保護能力の特徴>
- 保護能力が大きければ、特急品への対応スピードが早くなりバッファーは短くてすみますが、大きすぎると余剰能力が増え、投資効果が損なわれます。
- 保護能力が小さければ、生産の揺らぎに対する対応力が無くなり、バッファーを長く持たないとスループットが失われます。
※ バッファーと保護能力の持ち方は、個々の会社が今おかれている環境(手余り状態か?手不足状態か?,受注生産か?見込み生産か?など)及び、自社の力(対応能力)によって変わるべきものであり、その長さ・大きさについては、会社の意思決定として位置づけられるものです。
【V-A-T分類】
・V-A-T分類は、生産システム(製造工程・製造手順など)が、どのようになっているかを判別するもので、この分類により、製造の特性や生産管理を行うコントロールポイントが決まります。
<六つのコントロールポイント>
- 制約資源(制約となる機械・資材・人など)
- 分岐点(製品や工程・資材が分かれる工程)
- 収束点(製品や工程・資材が集まる工程)
- 初工程(製品や資材を投入する最初の工程)
- 組立工程(資材や部品・ユニットなどを集めて、組立てる工程)
- 出荷工程(製品を顧客または倉庫などに出荷する工程)
V型生産ライン
・V型生産ラインは、生産工程が進むのにつれて分岐して、英字のVのように広がって行くため、V型と呼ばれています。
・V型生産ラインの代表的なものとしては、鉄鋼関連の工場・石油の精錬工場などがあります。
V型ラインの特徴
- 原材料の種類が非常に少なく、少数の原材料から生産過程において分岐(加工方法を変える)させることで、複数の異なった製品を作り上げます。
- 生産過程での分岐点を過ぎた製品は、多くの場合、他の製品に流用することは出来ません。
A型生産ライン
・A型生産ラインは、複数の構成部品やユニットを組立てたり接合したりして、製品を組立てる形の生産ラインで、数多くの部品から比較的少ない製品を英字のAように集約して作り上げて行くため、A型と呼ばれています。
・A型生産ラインの代表的なものとしては、ビル・橋などの建設事業や注文生産の家・家具などがあります。
A型ラインの特徴
- 顧客に合わせた多種の部材を、オーダー毎に作成して行くことが多く、毎回違う生産工程・手順で製品を作り上げる。
- 常に違う生産手順となることが多いため、生産ラインは作業者のスキルに左右されることが多く、作業者のスキルが制約条件になることもある。
T型生産ライン
・T型生産ラインは、いくつかの限られた生産工程から作られたメインフレームを基に、最終工程に近づくにつれ複数の部品や装飾品を加える形の生産ラインで、英字のT似た生産工程を持つため、T型と呼ばれています。
・T型生産ラインの代表的なものとしては、内装やボディーカラーなどを顧客仕様に合わせて生産する自動車産業や、メモリーやCRT・DVDなどの付属品を、顧客のニーズに合わせて販売するパソコンなどがあります。
T型ラインの特徴
- 顧客の要求納期が重要なファクターとなるのに対し、顧客の要求納期が製品の生産期間(リードタイム)より短いことが多いため、工程内の仕掛りや完成品の在庫を多く持って対応していることが多い。
- 現在の生産業界の中では、一番オーソドックスな生産形態であり、多くの産業がこの形態である。