今回は、DBRを実際に運用するための生産計画立案と、管理の仕組みについて書きます。
生産計画の立案
まず、生産計画の立案についてですが、計画立案のためのアルゴリズムを説明する前に、工場で生産を行うためのキーとなる「生産オーダー」について、知っておいてほしいことがあります。
それは、生産オーダーには大きく2種類のものがあるということです。
生産オーダーの種類
<確定受注オーダー>
・顧客からの注文により、製品・数量・納期などが決っている生産オーダーであり、直接売り上げに結びつくものを生産するためのオーダー。
(顧客からの注文で発生)
<在庫補填オーダー>
・顧客の要求にいつでも応えられるように、完成品として持っておくものを生産するオーダーであり、 直接は売り上げに結びつかないものを生産するためのオーダー。
(営業からの見込み、発注点方式による補填要求、経営戦略的な作り溜め、などで発生)
この2つのオーダーは、生産ラインでものを作られている方々にとっては、どちらも同じ要求としてみなされることが多いようですが、その要求レベルは大きく違います。
また、生産によって確実にお金をもらえるのは、確定受注オーダーの製品だけのはずです。
よって、この2つのオーダーを同じ管理レベルで生産するということは、間違っているのです。
しかし、同じ製品を一度に沢山作ることは、生産効率が上がり、生産性もよくなるため、生産工場では、「まとめて作ったほうが良い」という、間違った行動につながってしまうのです。
ただし、顧客が欲しい時に「欠品」を起こすことは、機会損失を発生させるとともに、顧客を失う可能性もあります。
そのため、在庫補充オーダーと言えども安易に扱うことは出来ません。
では、この異なった2つの生産オーダーを、どのように計画するか?についてお教えします。
DBRの生産計画立案
1.生産能力が制約の場合(需要>供給)
この場合は、顧客の求める品質や性能を満足させることはもちろんですが、工場としては、
・如何に顧客の要求する製品を、現有リソースで如何に多く生産するか?
・如何に顧客の求める納期を守れるか?
が利益を増やすためのカギとなるはずです。
そのため生産計画立案の手順は、
- 確定受注の中から計画期間の対象となるオーダーを抽出し、納期順に並べる。
- 出荷バッファ分の日数+初工程~最終工程までの製造リードタイム分の日数+制約工程前バッファ分の日数だけ遡り、投入予定日を決める。(仮の投入計画)
- 仮の投入予定日~制約工程までの製造リードタイム+制約条件前バッファ分の日数+制約工程での処理時間だけを戻り、制約工程の完了予定日を決定する。(仮の制約工程完了予定日)
- 制約工程の無限能力での負荷山積みを行う。
- 制約工程の能力を基準に、有限能力での山崩しを行う。ただし山崩し結果が、制約条件前バッファ日数を上回った場合は、投入予定日を前にずらす。(投入予定日が、現在の日時より前になった場合は納期変更を検討)
- 対象期間内の全ての確定受注オーダーの計画が埋まったら、在庫補填オーダーを同じように抽出し、同一手順で計画を立案する。
- 制約工程順序計画については、同一日程内での生産のまとめが出来れば実施する。
- 制約工程を通らない製品オーダーの、投入計画を立案する。(投入計画=出荷バッファ+初工程~最終工程までの製造リードタイム)
2.市場が制約の場合(需要<供給)
この場合は、出来る限り仕掛りを減らし、身軽にすることで生産スピードを上げ、キャッシュフローの改善に努めます。
そのための生産計画立案手順は、
- 確定受注の中から計画期間の対象となるオーダーを抽出し、納期順に並べる。
- 初工程~完成までの生産リードタイムの3倍の日数だけ遡り、投入予定日を決める。
- 投入予定日~制約工程までの製造リードタイム分だけ進め、制約工程前の到着予定日を決定する。
- 対象期間内の全ての確定受注オーダーの計画が埋まったら、在庫補填オーダーを 同じように計画する。
この2つのスケジューリングは、非常にシンプルですが、全体最適な生産活動を行うためには、これだけで十分なのです。(必要以上の計画立案は、余計な仕事を増やし仕掛りを増やし、利益を圧迫させます)
そして、このシンプルな計画は、DBRの機能を最大限に引出すための管理方法により、パワフルでダイナミックな生産活動を実現させます。
DBRの生産管理方法
まず、製造部門での処理ルールですが、
- 投入工程では、投入計画に合わせ原材料の投入を行います。(特急指示がない場合)
- 制約工程では、レッドゾーン製品でなく、納期的に問題の出ない範囲であれば、まとめ生産を行う。
- その他の工程では、基本的に生産効率が下がっても、来たものを来た順番で生産する。
このような取り決めの中で、次の順番で生産管理を行います。
1.納期を守る管理
・生産活動の中で「顧客の要求納期を守る」ということは、信頼関係を保つためにも重要な課題となります。(品質・性能・価格などが守れないとしたら、生産管理以前の問題ですから別の問題として取組んでください)
そのためDBRにおける生産管理では、出荷計画と投入計画の間の期間を、納期を守るためのバッファとして生産管理に使います。
管理方法は、この期間を3等分し、前半をグリーンゾーン、中盤をイエローゾーン、後半をレッドゾーンに分け、
- グリーンゾーンの状態であれば、なにもアクションをとらない。 (ある意味、進捗状況も追わない)
- イエローゾーンの状態であれば、進捗状態に注意する。←優先指示を出す(ただし、問題が起きていなければアクションはとらない)
- レッドゾーンの状態であれば、最優先指示を出す。←今すぐやれ!の指示を出す(この状態の製品については、逐次進捗を管理する)
また、この3種類のゾーン管理(色の変化)は、確定受注オーダーと在庫補填オーダーで、基準となるものが大きく違います。
【バッファの色の変化】
- 確定受注オーダーでは、納期に対して進捗状況がどうか?により、色が変わります。
- 在庫補填オーダーでは、在庫の量がどうか?により、色が変わります。
そして計画されたオーダーは、確定受注品でも在庫補填品でも、色により同一レベル(優先度)での管理が行われます。
このようにDBRの管理では、制約となる製品だけを集中管理するという、シンプルな管理方法になります。
2.最大の能力を出すための管理(工場能力が制約の場合のみ)
・工場内の能力に制約がある場合、納期を守るバッファだけの管理では、レッドゾーンオーダーだらけになる可能性があります。
そのため「納期に問題が出ない範囲で、工場の持てる能力を最大に発揮させる」ことが必要となります。
そこでこのような場合、制約工程の能力を最大に発揮させるためのバッファを使って、能力アップを図ります。(ただし、納期を守るバッファがレッドゾーンのものがある場合は、その製品の生産を優先します)
管理方法は、制約工程での処理量(ドラム)に対し、制約工程前の投入品が多いか?少ないか?で、グリーンゾーン・イエローゾーン・レッドゾーンに分け、アクションを決めます。
※ TOCでは、この制約工程の能力を最大にするバッファ(制約工程前バッファ)を、能力バッファまたの名を、CCRバッファと呼びます。(CCR:Capacity Constrained Resource)
※ 納期を守るバッファは、出荷バッファと呼ばれます。
※ 部品の欠品やユニットの合流点に置き、合流遅れなどを回避するためのバッファを、組立バッファまたの名を合流バッファと呼びます。
次回は、DBRの入門編の最後として、DBRの考え方や機能について、まとめてみます。