今回は、TOCの考え方について、もう少し詳しく書いてみます。
TOCの基本概念:全体最適とは
TOCが他の改善手法と大きく違う点は、「全体最適」という考え方が、全ての理論の根底にあることです。
従来の考え方では、それぞれの部署が自部署を良くすることだけに目を向け、個別に改善活動を行います。(部分最適と言います)
それに対し、全体最適の場合、自部署は良くならなくても、企業全体として良くなることであれば、改善を実施するという考え方をします。(極端に言えば、自部門の評価は悪くなっても、企業全体が良くなれば良いということ)
全体最適をもう少し解かりやすく書きます。
ここでは「鎖の強度を高める」ことを目的として、そのための改善を考えてみましょう。
鎖の強度は、鎖を両側から引っ張ることにより確かめられます。
両側から引っ張られた鎖の輪は、一番強度の低い部分が最終的に切れてしまいます。
そして、この鎖が切れたときの力が、この鎖全体の強度となります。
では、この鎖の強度を高めるためには、どうしたら良いでしょうか?
切れた鎖の輪(一番強度の低い輪)の強度を高めれば良いはずです。
企業ではどうでしょうか?
ここでは仮に、企業の目的を「生産量を増やす」こととします。
そして、それぞれの部署(営業・購買・加工・仕上・組立・検査・‥など)が、一つ一つの鎖の輪です。
生産量を増やすためには、一番生産能力の低い「組立工程」の生産能力を、高めれば良いという事になります。
それ以外の工程の生産能力をいくら高めても、出荷量は変わらないのです。
これが、全体最適の基本です。
全体最適の考え方には、さらに以下の3つの基本的な考え方が含まれています。
TOCの基本的な3つの考え方
- 組織には、達成すべきゴールがある。
- 全体に影響を及ぼす、ごく少数の要素がある。
- 部分の合計は、全体と一致しない。
この3つの基本的な考え方を、もう少し解説します。
1.組織には、達成すべきゴールがある。
組織の目的や達成すべきミッションを明確にし、全員のベクトルを合わせることが大切であり、同一目標に向かうことにより、正しい判断や行動ができるようになります。
2.全体に影響を及ぼす、ごく少数の要素がある。
全体に大きな効果を及ぼす部分(制約工程)に改善を集中することで、「小さな努力で、大きな成果」を得ることができます。
限られた資源を分散して使うのではなく、この制約に集中させることが重要なのです。
3.部分の合計は、全体と一致しない。
組織は、単独で存在しているのではなく、お互いに連携しあっているため、相互に影響を受けています。そのため、改善しても最終的に効果の表れない所と、改善効果が全体に大きく表れる所があります。よって、全体にとって効果の表れない工程の改善をいくら行っても、その改善効果の合算値が、全体の改善効果になることはありません。
上図は、全工程で改善を施しても、制約工程の改善以上の効果は望めないことを表したものです。つまり、いくら部署ごとの部分最適を行っても、企業全体の制約工程を改善しない限り、利益に繋がらないのです。
次回は、TOCにおける「制約」について書いてみます。