TOCに関する文献や著書には、専門的で分かりづらい用語がいくつも出てきます。そこでTOCで使われる用語や表現について数回にわたり、整理しながら書いて行きます。

TOC手法としての用語

【TOC】 Theory of Constraints (制約条件の理論)

・TOCとは、企業収益の鍵を握る「制約条件」にフォーカスする事によって、最小の努力で最大の効果(利益)をあげるシステム改善手法のことです。

ここで言うシステムとは、企業や組織などの仕組みのことを指します。

・TOCが他の手法と大きく違う点は、全てにおいて「全体最適」という考え方が、根底にあることです。

<TOCの歴史>

・TOCは、1980年代、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラット博士により提唱され、The・Goal(ザ・ゴール)という小説によって一躍有名になりました。

The・Goalは、全米で250万部以上を売り上げる大ベストセラー小説です。

The・Goalの中では、TOCの基本となる全体最適の考え方を、DBR(ドラム・バッファ・ロープ)の仕組みとして、ボーイスカウトのハイキングの例を使って分かりやすく説明しています。

また、ゴールドラット博士は、ザ・ゴールで説明した手法の教育・研究に専念することで、次々に新しい考え方を提唱してきました。(DBR・スループット・思考プロセス・CCPMなど)

<TOCの基本となる考え方>

1.組織には、達成すべきゴールがある。

  • 営利企業にしろ、非営利企業にしろ、組織は必ず達成すべき目的を持っている。
  • TOCでは、ゴールとして「儲け続ける」という前提をおいている。

2.全体に影響を及ぼす、ごく少数の要素がある。

  • 現在の組織は複雑な組織である。
  • 組織の業績を上げるためには、数多くの変数を相手にしなければならない。
  • 数多くの変数を効果的にコントロールしていかなければならない。
  • 数多くの変数をその最大能力まで活用することは、限られた経営資源の中では不可能である。
  • 組織の業績向上に大きく影響を与える変数(レバレッジポイント)を見つけ、それを徹底的に活用することが重要となる。
  • TOCではこの変数はごく少数(おそらく一つ)しかないと考え、その変数に焦点を当ててゆく。

3.部分の合計は、全体と一致しない。

  • 組織の目的を達成するためには、組織を構成する各部分がそれぞれの努力を、全体の目的達成に向けて同期化する必要がある。
  • 組織をその構成要素に分割して、個々に捉えることは意味がない。
  • それぞれの努力は、制約条件(レバレッジポイント)に焦点を合わせておかなければならない。
  • それぞれの努力の評価は、スループット評価にてなされる。


【DBR】 Drum Buffer Rope (ドラム・バッファ・ロープ)

・DBRとは、製造業で比較的生産期間が短く、同じものを繰り返し生産するような、繰り返し型の生産ラインに適した生産管理方法である。

・ボトルネック工程(制約工程)にフォーカスし、ボトルネック工程の能力を最大限に発揮させることで、企業の利益を最大にする。

<基本的な考え方>

・ボトルネック工程の生産能力を、ドラムとして生産ラインの作業ペースを決め、ボトルネック工程が前工程の生産の揺らぎ(トラブルなど)により材料切れで停止しないようにバッファ(仕掛り)を配置し、先頭工程が必要以上に材料を投入しないようにバッファの量に応じた、ロープを掛け投入量をコントロールする。

<DBRに適した業種>
  • 自動車部品の製造ライン、電子部品の製造ライン、家電製品の製造ライン、・・・など
  • 鋳物製品の生産工場、部品の加工工場、製品の組立工場、プレス成型品の工場、・・・など
  • コンビニやスーパーなどのサプライチェーン型産業、・・・など

※ 同じものを毎日、または毎月のように繰り返し生産しているものなら、ほとんどの物に適用が可能。


【CCPM】Critical Chain Project Management(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)

・CCPMとは、土木・建築のような1物件単位の二度と同じ作業の無い業務や、業務内容や作業時間に不確実性の高い業務及び、製造業で製造期間の非常に長い製品(半年・1年・・・)の生産業務など、多くの部署(人)が関わるプロジェクト的な業務に適応した管理手法です。

人間が中心に進められる業務への対応策や、どの時点でアクションを起こすか?など、

不確実性の高い業務をどのように、計画・管理して行くかが明確にされている。

<基本的な考え方>

・プロジェクト業務のほとんどは、多くの人間が関わり、業務の進行では人間が中心となるため、人間ならではの問題が多く発生する。しかし、従来から使われているプロジェクト管理方法では、この問題への対処方法が明確化されていないため、ほとんどのプロジェクト活動は予定をオーバーするか、品質・納期・機能のいずれかを落とすことになる。

  • ほとんどの作業が人間であるから発生する問題には、「計画時間のサバ読み」「作業実施時の学生症候群」「作業指示としてのマルチタスク」「作業評価としての早期完了の未報告」「進捗報告方法の比率(%)報告」などがある。
  • マネジメントとしての問題には、「プロジェクトの優先順位付け」「リソースの不足・取り合い」「遅れへの過敏な対処」「部分最適な判断」「多くのタスクの進捗管理方法」などがある。

CC:Critical Chain
(クリティカルチェーン)と呼ばれる「プロジェクトのスケジューリング方法」
PM:Project Management
(プロジェクトマネジメント)と呼ばれる「プロジェクトの管理統制方法」

<CCPMに適した業種>
  • 土木事業や橋・道路・ダムなどの建設工事といった公共事業、・・・など
  • 企業の新製品開発、ソフト開発、システム開発といった開発業務、・・・など
  • 航空機の製造、船舶の製造、鉄道車両の製造、オーダーメイドの生産業務、・・・など

※ プロジェクト以外にも、受注時に仕様を決める業務(一品料理的な業務)などにも適用可能。


【スループット会計】 Throughput (TA)

スループット会計は、営利企業の共通目的である「Make Money(お金を儲け続ける)」に対し、その目的を達成するためのTOC手法(DBRやCCPM・思考プロセスなど)で出た改善結果を、正しく評価したり・正しい活動を決定したりするための評価システムである。

・財務会計システム(平等な配分を考える)を代替するものではなく、儲けを増やすためにはどちらが得かを意思決定するものである。

スループットT:throughput)

→ 販売を通じて生み出されたお金(製造を通じてではない)
在庫I:inventory)

→ 売る目的で購入した材料の金額(付加価値は含まない)
業務費用OE:operational expense)

→ 在庫をスループットに変換するために使われたお金

<スループット会計での利益>

スループット会計での利益の考え方は、「利益=入ってくるお金-出て行くお金」という、非常に単純で分かりやすいものとなっている。(科学的ドンブリ勘定などとも言われる)

スループット会計では、利益=スループットの合計-業務費用の合計
※ (スループット=売上高-直接材料費)
※ 業務費用=(直接労務費+製造間接費+販売費+一般管理費)

標準原価計算での貢献利益では、貢献利益=売上高-変動費
変動費=直接労務費+製造間接費の一部

※ 標準原価計算での変動費には、製造間接費の一部が含まれるのに対し、スループット会計では、基本的に直接材料費だけが唯一の変動費になる。

業務の評価としての会計システム

財務会計システム

外部の利害関係者(税務署、株主、銀行など)に提供する会計。

情報で、決められたルール(商法、証券取引法など)に従って、過去の結果を正確に整理したもの。

管理会計システム

企業(経営者、管理者、社員など)の意思決定や統制に利用する。

情報で、決められたルール(法律など)はない。

現在、未来の企業の姿を決めるためのもの。

原価会計

従来から使われている管理会計システムで、製品1個当たりの原価を算出して意思決定や評価に使うシステム。

(間接費用の増加に伴ない正しい原価が求められなくなり、間違った意思決定や評価をしてしまう可能性が大きい。)

ABC会計

原価会計の問題を解決すべく、増大した間接費用を細かく分析し、製品1個当たりの原価を求める会計方法。

(時間と労力を使う割には、正しい結果を得ることはほとんどできない。)

スループット会計

製品1個当たりの原価を求めることは意味がなく、意味があるのは売値から完全な変動費(材料費が主)を引いた、スループットであるという考え方。

(この考え方を使うことによって、正しい意思決定や評価ができる。)

なお、売値から変動費を引いた貢献利益(あるいは限界利益)を基準にして意思決定に使う直接原価会計は、スループット会計に通じるものである。

※ 原価会計は個別最適化を助長し、スループット会計は全体最適化を助長す る。

<基本的な考え方>

・スループット会計には、以下の3つの基本的な考え方がある。

1.単位原価は存在しない
(業務費用の個別の配賦はしない)

2.儲かる、儲からない、の判断基準
①判断基準(スループット=売上-材料費)
スループット総合計 > 業務費用 → 儲かる
スループット総合計 < 業務費用 → 儲からない

②手不足状態と手余り状態

手不足状態 (需要 > 供給) :増分スループット > 増分業務費用 → 儲かる
手余り状態(需要 < 供給):増分スループット > 0(増分業務費用) → 儲かる

3.プロダクトミックスの考え方(利益速度を考える)
制約工程での、単位時間あたりのスループット最大化を狙う


【思考プロセス】 Thinking Process (TP)

・思考プロセスとは、企業・組織の業績向上を妨げている制約を見付け、この制約を打破し・改善するための、体系的なプロセスを提供する思考方法である。

<思考プロセスの3つの質問>

・思考プロセスでは、「何を変えるのか?」「何に変えるのか?」「どうやって変えるのか?」の3つの質問に、答えを与えてくれる。

<思考プロセスの5つのツリー>

・3つの質問に答えるために、思考プロセスでは5つのツリーが用意されている。

CRT : Current Reality Tree 現状問題構造ツリー

・目的の達成を阻害している多くの問題を、問題の連鎖から因果関係ロジックにより構造化し、中核となる問題「中核問題(変えるべきもの)」を見つけ出す。

CRD : Conflict Resolution Diagram 対立解消図

・問題の対立構造を必要条件ロジックにより明確化し、間違った行動を引き起こさせている仮定を見付け、正しい行動が取れるような対策を考える。

FRT:Future Reality Tree 未来構造ツリー

・実施しようとしている対策が、現在起きている全ての問題を解消するか?について、因果関係ロジックで検証する。

PRT : Prerequisite Tree 前提条件ツリー

・改善を行うための大枠の手順を決め、中間目的を置きながら実施上の障害を見付け、更なる対策を付加することで、改善・改革を進める手順(I-Oマップ)を作る。

TT:Transition Tree 移行ツリー

・中間目的を達成するために必要な詳細な項目(何を、誰が、いつ、どのように)を、行動レベルまで掘り下げて進め方を決める。

<5つのツリーの利用方法>

・一般的には、個々のツリーを単独で使う場合が多いが、大きな変革を起こす場合などでは、5つのツリーを順番に全て使う場合もある。

5つのツリーを全て使う方法は、
「企業が、現在から将来にわたって儲け続ける」ための、シナリオや戦略・戦術作りなどに利用することが多い。(5ツリー法と3クラウド法がある)

1つのツリーを単独で使う方法としては、

CRT:現状の問題構造をみんなで認識する。(また、中核問題を見つける)

CRD:対立している問題から、正しい方向を導き出す。

FRT:実施しようとしている対策が、良い結果を導き出すか検証する。

PRT:目的を達成するための手順で、障害が発生しないか検討する。

TT:誰が、いつ、なにを、どのようにするかを、抜けなく決定する。

などです。