前回までで、TOC導入を上司に決断させたT係長は、実際に推進するためのプロジェクトメンバーを選出することにしました。
選出に当たっては、職制を横断したメンバーによる戦略チームと、目の前にある課題を解決する実践チームに分け、それぞれ選ぶことにしました。
変化への抵抗(4)「この解決策は実行すると、マイナスの影響を引き起こしてしまう」
T係長は早速、プロジェクトメンバーの人選と招集を上司に提案しました。
上司は人選されたメンバー表を見て、「よし分かった。次の部門長会議で提案しよう!」「君は、部門長会議で説明する資料を作成しておいてくれ!」と言ってくれました。
外部の力を利用することへの疑問
さっそくT係長は、部門長会議で報告するための資料を準備し、部門長会議に出席しました。
T係長はまず、会社がもっと儲けるためには「TOCの考え方を導入すべきであると考えている」こと。そしてその進め方として、「部門横断型のプロジェクトが必要である」ことを、丁寧に説明しました。
更に進めるに当たっては「外部コンサルタントを利用すること」なども、付け加えて説明しました。
この提案に対し、出席した各部門長からは「進めようとしていることは良くわかった!」
しかし、「外部のコンサルタントに頼まないといけないのか?」「自分たちだけでやってみたらどうか?」との意見が出てきました。
各部門長は、外部の人間が自社の機密事項(研究開発事項や内部技術など)を知られてしまうことや、他の会社に漏らしてしまうことがないかと、不安を感じているのです。
これが四番目の抵抗「この解決策は実行すると、マイナスの影響を引き起こしてしまう」です。
そこでT係長は、事前に用意していたコンサルタントとの守秘義務契約書の写しを説明し、更に信用できるコンサルタントであるかどうかを見てもらうための懇談会を予定しているとを、各部門長に話しました。
そして各部門長は、この懇談会で信用できるコンサルタントであるかを見極めた後、正式に決定するということで了解してくれました。
その後実施された懇談会により、コンサルタントへの疑問は和らげられ、とりあえずスタートすることとなりました。
変化への抵抗(5)「提案されている改善策の実行を妨げる障害がある」
外部コンサルタントの支援を受けることに了承を得たT係長は、直ぐにプロジェクトメンバーに対する導入研修とキックオフを企画しました。
部門最適を乗越える!
しかしキックオフの日程が決まると、一部の部門長から「今回提示されたメンバーは忙しくてダメだ!」「他のメンバーじゃダメなのか?」との意見が出てきました。
その部長によると、本人達が「今は忙しくてプロジェクト活動になど参加してる余裕はない」「もっと暇な人間にやらせてくれ!」と言っているというのです。
これが五番目の抵抗「提案されている改善策の実行を妨げる障害がある」です。
そこで、キックオフ前にプロジェクトメンバーを集め、主旨説明と概略的な進め方及びコンサルタントとの顔合わせを行うことにしました。
趣旨説明会の場でT係長は、上司の説得に利用した現状問題構造ツリーを取り出し、今各部門で起きているほとんどの問題は、ごく少数のことにより引き起こされていること。そして問題の多くは、部門や業務の違いによる対立構造になっていること。さらにこれらの問題は方針制約と呼ばれる問題であることなどを説明しました。
そして、方針の問題や評価の問題・部分最適の問題などは、我々が明確なビジョンを持ち、その実現に向けてベクトルのあった戦略・戦術を作り、打破していかなければならないことを訴えかけました。
さらにその実現のためには、会社のキーマンである今回人選したメンバーが欠かせない。ということを理解してもらうよう丁寧に説明しました。
そして、T係長の熱意ある説得により、プロジェクトメンバーのほぼ全員が参加を了承してくれました。
変化への抵抗(6)「その結果起こる未知のことへの恐怖感」
全てが整ったT係長は上司に、「やっと準備ができましたね!」「これで会社が良い方向に変わってくれますね!」と、ニコニコしながら話しかけました。
しかしその上司は浮かない顔で、「高いコンサル費用を払い、本当に成果は出るのだろうか?」「成果が出なければ自分が責任を取らなければならない!」と、不安げに言いました。
これが六番目の抵抗「その結果起こる未知のことへの恐怖感」です。
上司は、実施が決まってスタートする日が近づくにつれて、こんな大きなプロジェクトが本当に機能するのか?以前やったような全社プロジェクトのように「尻切れトンボ」にならないか?など、いままでやってきたことが無いことへの不安で、頭が一杯になってきました。
上司の不安に気付いたT係長は、会社が終わった後に都合の付く有志(プロジェクトメンバー)を誘い、非公式での決起集会(飲み会)を開き、上司に「自分達に任せてほしい!」と意気込みを伝えました。
この決起集会を境に、上司が不安を訴えるようなことはなくなりました。
この時点でやっと、「抵抗の6階層」を乗越えたのです。
まとめ
今回までで、変化への抵抗6階層について例を挙げ説明してきました。
しかし、いつもこの抵抗が6階層発生する訳ではありませんし、各抵抗が必ずしも1件の問題で解決する訳でもありません。
このような変化への抵抗は、人間であれば誰しもがとる行動で、事前に先を予測し・準備しておくことにより、起こる前に回避することができるものです。
<変化への抵抗>
- 対応している問題を問題として認めない。
- 解決策の方向性に同意できない。
- 解決策が問題を解決するとは思わない。
- この解決策は、もし実行すると、マイナスの影響を引き起こしてしまう。
- 提案されている解決策の実行を妨げる障害がある。
- その解決策を実行した結果起こる、未知のことへの恐怖感
ですから、この変化への抵抗の6階層は、何か他の人や部署がからむようなことを実施する場合の、チェックリストとして活用すると良いと思います。
最後に、チャールズ・ダーウィンの言葉があります。
「最も強いものが生き残る訳ではない」
「最も賢いものが生き残る訳でもない」
「唯一変化できる者が生き残る」
是非、世の中の変化を的確にとらえ、正しい方向に変化していってください。