今回は、DBRがなかなか製造部門に、定着しない理由を探ってみます。

TOC理論を、世の中で一躍有名なものにした著書「ザ・ゴール」は、TOC手法の中のDBR(ドラム・バッファ・ロープ)であることは、既にご存知だと思います。

しかし、日本ではDBRを導入して会社の利益が増えたという報告を、あまり聞かないのはなぜでしょうか?この点について、過去の導入経験をもとに、私個人としての意見をまとめてみます。

DBRが日本企業に定着しない理由

  • 仕掛りは、全て悪(ムダ)と考える風潮が強い
  • バッファを時間でなく、量でイメージする
  • 個別評価指標に縛られる
  • リードタイム短縮の効果を、正しく評価する仕組みが無い
  • 特急品扱いの製品が多すぎる

以下、それぞれの理由について解説します。

仕掛りは、全て悪(ムダ)と考える風潮が強い

日本生まれで世界的に有名になった改善手法として、トヨタ生産方式があります。

トヨタ生産方式は、日本の最優良企業であるトヨタ自動車が、ハッキリと導入成果を示しているため、日本企業の多くは、このトヨタ生産方式を学び、自社の改善活動に役立てようとしています。

特に、このトヨタ生産方式の中には、7つのムダと呼ばれるムダ取りのためのキーワードが存在することは、製造業の方であれば誰もが知っていると思います。

トヨタ生産方式の7つのムダ
7つのムダ 説明
作り過ぎのムダ 作り過ぎて売れないモノ全てのこと
手待ちのムダ 製品の流れや作業の停滞のこと
運搬のムダ 運搬や移動・積み替えなど、付加価値を生まない作業のこと
加工そのもののムダ 本来、不要な動作や工程のこと
在庫のムダ 材料や部品・製品など、売れないものを持っていること
動作のムダ 余計な動作や付加価値を生まない動きのこと
不良を作るムダ 材料や加工などで発生する不良と、そのために使った時間や労力のこと

※ 最近では、産業廃棄物のムダを加え8つのムダと呼んでいる人もいます。

この7つのムダは、業務のムダを省くチェック項目として非常に有効なものですが、この7つのムダを無理やり拡大解釈してしまう人がいるようです。

特に、在庫のムダについては、究極の状態として仕掛り・在庫0(ゼロ)と設定されるため、「工程間にモノが置かれていてはいけない」ということになります。

しかしDBRでは、前工程の生産の揺らぎから制約工程を守るため、「制約工程前には仕掛りを置くべきである」としています。

ここで私が言いたいことは、どちらが正しいか?ではなく、どちらが現実的なのか?ということです。確かに、製造工程のラインバランスをとれば、工程間の仕掛りを0(ゼロ)に近づけることは可能でしょう。

しかし、ラインバランスは生産する製品構成が変われば崩れます。また、無理やりラインバランスをとることは、逆に、加工そのもののムダや動作のムダ、を引き起こしてしまうのではないでしょうか?

バッファを時間でなく、量でイメージする

生産ラインで「仕掛量はどれ位あるのか?」と聞けば、「何個です」と答えが返ってくるように、ほとんどの企業で仕掛量はで管理されています。

そのため、DBR構築でバッファ量を設定する場合、何時間分(何日分)のバッファを置くのか決めるべきところを、どうしても何個置けばよいのか?ということで悩んでしまいます。

では、DBRのバッファはナゼ、数ではなく時間なのでしょうか?

例えば、制約工程での各製品の作業時間が、製品Aは1個6分、製品Bは1個3分で、バッファの設定料が100個とした場合、バッファが制約工程を保護できる時間は、製品Aが流れている場合は600分(10時間)なのに対し、製品Bが流れている場合は300分(5時間)と減ってしまうからです。

製品A : 1個6分 × 100個 = 600分

製品B : 1個3分 × 100個 = 300分

よって、バッファの設定は10時間分と設定し、製品Aが流れている場合は100個必要であり、製品Bが流れている場合は200個必要となるのです。

このように、数でバッファ管理を行うということは、制約工程を保護できる時間が、製品により変化してしまうことを意味します。

個別評価指標に縛られる

個別評価指標の問題は、TOCを導入しようとする場合全てについて発生します。

DBR導入では、継続的改善の5ステップの中のステップ3にあたる「非制約条件条件を制約条件に従わせる」の場面で、必ずと言ってよいくらい発生します。

そして、このステップ5で発生する個別評価指標に縛られること無く、全体最適の考え方で行動できるかが、DBR導入での成功を左右するということは言うまでもありません。

よく障害となる個別指標
1.生産性 ‥ 投入工数当たりの生産量を示します。

本来、この指標は、改善努力の割合を評価するために使われるものです。しかし、この数値を良くする方法としては、投入工数を減らすか、処理数を増やすか、のどちらかとなります。

そのため、数値を上げることばかりを考えて、必要以上の生産を行ったり、段取り替えのタイミングを無理やり延ばしたりといった、企業の利益に結びつかない行動をとってしまいます。

基本的にTOCでは、人件費(投入工数)は固定費として扱うため、売上に結びついた製品の生産量を増やすことを優先します。そのため、各工程別の生産性評価は行わず、会社全体としての生産性評価で、改善努力の割合を評価します。

2.稼働率 ‥ 稼働可能時間当たりの実稼働時間を示します。

設備稼働率というと、1日24時間・356日の中で、どれだけ動いたかが、究極の目標のように捉えている人が多いようです。そのため、「設備が止まっている=ムダがある」と判断されています。

本来、稼働率は、設備がいかに動いているかを示すものではなく、いかに生産活動に貢献したかを示す指標でなければなりません。そのため、稼働可能時間は、実稼働時間で生産された製品の本来の予定時間で、評価すべきではないでしょうか。

リードタイム短縮の効果を、正しく評価する仕組みが無い

DBRでは、製品をいかに沢山作るかというよりも、いかに早く作るか(流すか)を求めます。

ようするに、利益を増やすための方法として、生産を開始してからお金に変えるまでの時間を早くする(キャッシュフローを良くする)ということです。

リードタイム短縮効果

しかし、生産ラインではリードタイムを短縮することは良いことだということは解かっていても、短縮した効果を正しく評価できる指標が無いため、どうしても生産性や効率・稼働率などの、経理で利益に置き換えられる指標を上げることに終始してしまいます。

そのため、DBR導入で一時的に減った仕掛りは、徐々に増加に転じてしまうことが多いのです。

特急品扱いの製品が多すぎる

生産ラインに流れている製品には、顧客受注品・在庫補填品・試作品・営業戦略品・工場戦略品など、様々な思惑を持った製品があります。

そして、それらの製品にはほとんどの場合、守らなければならない納期が設定されています。

しかし、この納期通りに生産しようとしても、能力的な問題や部品の入荷状況・生産効率などの問題から、遅らせなければならない製品が出てきます。

本来であれば、計画段階で納期調整を行っておくべきなのですが、この納期調整は難しく・面倒であるため、あまり行われないようです。

そのため、生産段階に入ってから納期遅れが依頼元に伝わり、結局、特急品というラベルを貼られ、生産ラインの流れをかき分けて流されることとなります。

優先順序はどうなっているの?

また、このようなことを何回か繰り返すうちに、依頼元もまた遅れるのではないか?と考え、納期にサバを入れたり、最初から特急品としての扱いを依頼してきます。

このようなことを繰り返すうちに、生産ラインの中は特急品で溢れることとなり、製造ラインでは、納期は表示されていても誰も気にしなくなり、自分達の作りやすいものを作るようになります。

まとめ

DBRの導入では、製造部門が気にしている個別評価指標をどのように扱うかが、成功のカギを握っていることを忘れてはいけません。

そして、この個別評価指標から決別するためには、管理者自らが決別を宣言しなければなりません。