今回は、スループット会計で使われる用語について書きます。

TOC スループット会計で使われる用語

スループット(T:throughput)

・スループットとは、TOCにおける行動のための評価指標であり、製品を販売して得られるキャッシュから、製品を販売するために投資したキャッシュを引いた額を示します。

「スループット = 売上高 - 真の変動費」

「真の変動費」とは、原材料や輸送費などの変動費のみで、原価計算で含める減価償却費や光熱費、労務費などのいわゆる工場経費は含みません。

スループット(販売を通して生み出されたお金)
= 販売価格 - その中に含まれている材料の購入価格
※ 販売を評価する

従来からの部分最適な考え方では、生産工程内にあるどこか一部の工程だけの生産効率を向上させれば、工場全体の利益につながると考えていました。

しかし、実際のキャッシュ(会社の本当の利益)という意味では、そうならない場合が多々あります。

その原因として、生産プロセスの中で顧客の要求を満足させるために必要な能力は、生産プロセスの中で一番能力の低い工程(制約工程)によって決定されているにもかかわらず、それ以外の工程の生産効率を向上させることで、収益を上げようとしているからです。

TOCでは、スループットの最大化が会社の利益最大化につながるとして、会社の利益を決定している制約(生産能力の場合は一番能力の低い工程)の徹底活用(最大限の稼働)を行うことで、会社全体(全体最適)での利益を増やす活動を行います。


業務費用(OE:operational expense)

・TOCでは、企業で扱われる費用の中で、売上と原材料費は製品個々に直結した費用ですが、労務費・光熱費・設備償却費など、直接的に製品の生産に結びつかない費用は全て業務費用に含みます。

業務費用=I(仕掛在庫)をT(スループット)に変換するために、実際に使われたお金
※ 人件費は業務費用(固定費)とみなします

※ 人件費には、定時間内の費用と定時間外(残業・休出など)の費用がありますが、定時間外の費用を月の総額で見てみると大きく変動していないものです。

そのため、手間をかけて細かな時間外の変動を変動費として扱うことはあまり意味がなく、ほぼ同じ額が毎月固定費的に出るものと考えた方が簡単で分かりやすいのです。

よって、TOCでは残業・休出などの費用も、固定費として扱うことが多いのです。


仕掛在庫(I:inventory)

・製品を生産するために必要な原材料費は、1個作るために必ず必要となり、この材料費を如何に安く調達するか、如何に購入した原材料を早く製品にして販売するかが重要となります。

また、この仕掛在庫の評価額は付加価値を考慮せず、販売されるまでは原材料費(完成在庫も原材料費とする)で評価し、販売されてはじめて売値で評価されます。(付加価値を評価しない)

在庫費用=売る目的で購入した材料の購入額
= 原材料・仕掛り・製品在庫の中に含まれる材料の購入金額
※ 加工による付加される価値は含めない

なお、製品を作る過程で発生する外注費用は、基本的に変動費に含まれます。


標準原価

・標準原価とは、製品を一つ作るためにかかる費用を見積もった、製品の単価をいいます。

標準原価は、標準材料費・標準労務費・標準製造間接費から構成されます。

そして、この標準原価を基に製品の原価を計算する方法を、「標準原価計算」といいます。

標準材料費 = 標準価格 × 標準消費数量

標準労務費 = 標準賃率 × 標準作業時間

標準製造間接費 = 標準配布率 × 標準操業度

しかし、標準原価は見積りによる費用のため、実際にかかった費用との差異が発生します。


手不足

・手不足状態とは、需要に供給が間に合わない状態を言います。

手不足状態 = 顧客の需要量 > 工場の供給能力

手不足状態のときは、1つの不良や1回の設備停止が利益に大きく関係するため、生産性の向上=会社の利益となることが多いのですが、制約工程へのアプローチを忘れてしまうことがよくあります。


手余り

・手余り状態とは、手不足状態の逆で供給能力に対し需要が少ない状態を言います。

手余り状態 = 顧客の需要量 < 工場の供給能力

手余り状態のときは、1つの不良に対する損失が手不足状態の時と比べ、評価額は少なくなります。

これは、TOCの業務費用の考え方から、手不足状態のときは不良が1個発生したことによる損失は、売れるものが売れなくなったと考え、売値分全てを損したと考えるのに対し、手余り状態では、余っている時間で作り直すだけでよいため、損となるのは材料費だけであると考えるからです。


TDD(スループット・ダラーデイズ)

・この指標は、顧客への信頼性を評価するものです。

<計算式> 納期遅れ件数(オーダー金額)に、損失金額(納期遅れ日数)をかけたもの
TDD = 納期遅れオーダー金額 × 遅延日数

本来、顧客に届けられ売り上げが計上されるはずの現金が、納期遅れによりどれだけキャッシュフローを悪化させているのか、また、顧客に迷惑をかけているかを評価するものです。


IDD(インベントリー・ダラーデイズ)

・この指標は、生産工程の効率性を評価するものです。

<計算式> 在庫日数(工程内に停滞している日数)に、購入価格(材料費)をかけたもの
IDD = 原材料の購入価格 × 滞留日数

既に支払われている材料費が、まだ売り上げにならずにいくら社内に留まっているのか(お金がいくら社内で寝ているのか)を、評価するものです。


NP(ネット・プロフィット)

・NPは、スループットから業務費用を引いたもので、純利益を表します。

純利益(Net Profit)
= T(スループット) - OE(業務費用)


その他の指標

・TOCでは、T・I・OE・NP以外にも、T/I、T/OEなどの評価指標が使われます。

T/I : 在庫がスループットに変換される効率(システム内を材料が流れるスピード)

T/OE : 全体の生産性(1円の費用を使って獲得した金額)


割り勘計算と損得計算

・割り勘計算とは、費用を均等に配分するために利用される計算です。

例えば、会社の利益を従業員に均等に配分する。間接費を製品に割り振る。などのために利用される「標準原価計算」が、これに当たります。

・損得計算とは、どちらを選んだら得か?損か?を、判断するために用いられる計算です。

例えば、利益を増やすために社内で生産すべきか?外注先に生産を委託するべきか?などを、判断するために使われる「スループット計算」が、これに当たります。