今回は、私の経験から感じとった、TOC活用上の利点と注意点を書きます。

ここでの活用上の利点とは、IEやQCなど、今までの改善手法だけでは解決できなかった問題や、従来の改善手法には無かった、TOCの新しい考え方のことであり、注意点とは、TOC手法を導入する際の難しさや、今までの改善手法と混乱する点など、TOC手法を活用するうえで、注意していただきたい点のことです。

なお、今回書きたかったことは、それぞれの手法の問題点を挙げるということではなく、解決したい問題に対し、その状況に適した手法を選び、使っていただきたいということです。

TOC手法の利点とは?

TOC手法が、今まで活用されてきた代表的な改善手法(IE・QC・PMなど)に比べ、どのような点が良いのか考えてみますと、下記のようなことが挙げられます。

従来手法とTOC手法の違い(利点)

  • 「全体最適」という解かりやすく、誰もが納得できる考え方をベースにしている
  • 儲けを増やすための明確な評価指標(スループット会計)を持っている
  • 人間であるがゆえに発生する問題への対応策を持っている

以下、それぞれの項目について解説します。

「全体最適」という解かりやすく、誰もが納得できる考え方をベースにしている

従来型の改善手法(IE・QC・PMなど)は、そもそも個別の設備や作業及び製品などのそれぞれの問題に対し、「生産性の向上」「品質異常の削減」「故障率低減」といった、特定の問題に対し改善することを目的とした方法論です。

そのため、対象とした一部の作業や職場など部分的な点では改善され良くなりますが、その結果が必ずしも、他の職場や工場全体でみると良い結果を生むとは限りません。

例えば、「設備Aの生産性を10%向上させることができる」という改善を実施した結果、設備Aの稼働率は10%向上しても、後工程の能力が低ければ後工程に仕掛を増やしただけで、利益には何も貢献出来ておらず、逆に仕掛増という悪い結果をもたらします。

この現象は、設備や職場といった部分単位で結果を評価するために起きるものであり、時には、自分のところさえ良くなればいいという、間違った行動につながりかねません。
(このような行動は、部分最適の行動と呼ばれます)

TOCでは、「部分の合計は全体と一致しない」という、全体最適の考え方をベースに、どんな改善でも「会社全体としての利益に、どのように貢献するのか?」を、常に考え行動します。

例えば、非制約設備である設備Aの生産性を50%向上できる改善案と、制約設備である設備Zの生産性を5%向上できる改善案があったとすると、設備の生産性向上率が低いとしても、設備Zの生産性を5%向上させる改善案のみを、実施すべきという結論を出します。ただし、設備Aの生産性を50%向上させた結果、その空き時間を他の利益向上活動につなげられるのであれば、この改善も実施すべきという判断を下すこともあります。

改善効果の意味

このように、「その改善が会社全体の利益にどう貢献するのか?」という問いかけで、その改善の良否を判断ができるため、誰でもが納得できる考え方といえます。

儲けを増やすための明確な評価指標(スループット会計)を持っている

従来の改善手法では、生産性や稼働率・効率といった標準原価計算を基にした、「過去に比べ(他の職場に比べ)どれだけ良くなったか」という、平等性を基本とした評価が行われます。

更に、「製品の完成≒売上」という経理上のシステムにより、受注も無いのに多くの製品を生産し倉庫に収めれば、いかにも会社の利益が増えたように思える指標が提示されるため、時には儲かっているような錯覚をさせてしまい、黒字倒産という結果もたらすことさえあります。

TOCでは、会社の儲けを増やすための判断に標準原価計算による数値をを使うことが、間違えを引き起こす原因となると警笛を鳴らしています。

TOCでの利益とは、「儲け=入ってくるお金-出て行くお金」という、誰でもが解かる明確な評価指標を使います。(スループット会計

スループットT:throughput)
→ 販売を通じて生み出されたお金(製造を通じてではない)
在庫I:inventory)
→ 売る目的で購入した材料の金額(付加価値は含まない)
業務費用OE:operational expense)
→ 在庫をスループットに変換するために使われたお金

例えば、あまり仕事の無い職場から、忙しい職場への作業者の応援は、当たり前の行為なのですが、実は、スムーズに行える企業は少ないのです。

なぜならば、応援を行うことで職場間での人件費の付け替えが発生し、その結果、応援者を受入れた職場の効率や生産性などの指標が下がってしまうからです。

自職場の生産性が下がれば当然、その職場の管理者の評価は下がりますから、本来必要な応援者を受入れず、儲けられるはずの利益を棒に振るなどの問題が発生します。

(会社の人件費は、会社全体でみれば変わらないはずなのに、おかしな現象です)

TOCでは、基本的に人件費を固定費として扱い、会社から人が減らない限り変わらないものと考えます。

そのため、作業者がどの工程を応援しても会社全体としての固定費は変わらず、会社全体の利益はその行為で増えますから、必要な工程への応援はどんどんすべきであるとなります。

(個々の職場の効率や生産性は、会社の利益を考えるうえでは関係ありません)

人間であるがゆえに発生する問題への対応策を持っている

人間が中心となる職場では、理論だけでは解決できない人間行動の問題が発生します。そして、この問題は目に見えないため、発見が難しく対策出来ないことが多いのです。

例えば、プロジェクトの計画を立案する場合に、作業予定時間にサバを入れる。作業が早く終わっても直ぐには報告しない。指示担当者別に最優先作業がいくつも設定される。などは代表的な例です。

これらの行動の基本となっているものは、やはり評価基準です。

自分を良く見て欲しい。
自分ばかりが損をしたくない。
いくら頑張っても給料は増えない。

「人間は評価によって行動をする」ものです。よって、自分が損をしないように行動するのは、人間として当たり前のことなのです。

TOCでは、このような人間行動の問題をを抑制するための考え方として、スループットやDBR・CCPMなどの方法論内に、これらの対処方法を明確に示しています。

また思考プロセスでは、このような定性的な問題を浮き彫りにすることにより、目に見えない方針制約や評価指標などの問題に対処することができます。

TOC手法活用上の注意点とは?

TOC手法を活用してきた経験から、TOC手法の難しい点やTOC手法だけでは対処できない問題などがあると感じた点を、下記に挙げます。

TOC手法の注意点

  • IEやQCなどに比べ、個別の問題を解決するための手法が少ない。
  • スループット会計の導入時に、標準原価計算との混乱が生じる。
  • 思考プロセスとQC手法・ナゼナゼ分析などが、混同されやすい。
  • 生産性や稼働率などの評価基準から、なかなか脱却できない。

以下、それぞれの項目について解説します。

IEやQCなどに比べ、個別の問題を解決するための手法が少ない。

TOCでは、全体を管理コントロールするための方法論として、DBRやCCPMなどが用意されていますが、これらを有効に活用するためには、制約に対処するための活動が必要不可欠です。

例えば、DBRの仕組みは作り上げられたが、もっと利益を増やすためには制約工程の能力UPが必要となった場合などは、従来技法であるIEやQCなどの個別改善の手法が有効となります。

そのため、どこを改善すれば利益が増えるのか?が解かれば、社内にいるIEやQC・PMなどの技術は、予想以上の効果をもたらします。

TOC活動の中で従来技法が最大に効果を発揮する部分

スループット会計の導入時に、標準原価計算との混乱が生じる。

簡単に言うと、スループット会計は損得計算であり、標準原価計算は割勘計算であることは、みなさん既にご存知だと思いますが、どうしても新しい評価指標を作るとなると、その基となるデータは経理部門から手に入れなければならなくなります。

その時に、人件費は固定費として扱うとなると、残業代や社内外注費はどうなるのか?作業者の応援や使用設備の償却費の違いはどうなるのか?など、細々した点で議論が始まります。

基本的には、新しい評価指標を導入する際にハッキリ決めればよいのですが、このような細々した点を時間をかけて正確に取ることが、どれだけ利益につながるのでしょうか?

TOCでは、「科学的ドンブリ勘定」的な考え方が大切なのです。

残業代が先月に比べどれだけ変動するのか?そして、その変動がスループットとしてどれだけ影響するのか?と考えて行くと、手間暇をかけて正確に数字を捉えるよりも、毎月だいたいこれぐらいの残業代がかかっているからということで、固定費勘定に入れても良いのではないでしょうか?

それよりも、「材料比率が増えている。」「外注費が増えている。」「固定費が増えている。」「売上が減っている。」といった、解かりやすい指標で捉え、対策を考え・実行する時間を増やすことが重要だと考えます。

<TOCの儲けの考え方>
スループット(売上-材料費)を増やす。(上限が無い)
棚卸資産(総投資)を減らす。(ゼロ以下には出来ない)
固定費(材料費以外)を減らす。(ゼロ以下には出来ない)

思考プロセスとQC手法・ナゼナゼ分析などが、混同されやすい。

思考プロセスの現状問題構造ツリーは、UDE(UnDesirable Effects=好ましくない結果)を、原因と結果の関係で構造化するため、「なぜ」という言葉を間違って使ってしまうことがよくあります。

本来、現状問題構造ツリーでは、下(原因)から上(結果)に向かって、因果関係をチェックするのですが、原因が十分でないと判断した時に一段階程度掘り下げて考えることがあります。

このときに「なぜ」と問いかけることがあるため(正しくは、他にこの結果を引き起こす原因はありますか?と問います)、このときに、今までに馴染みの深いQC手法の「特性要因図」や、JITのなぜなぜを5回問いかけろという方法論と混同してしまい、裾野がどんどん広がってしまうことが多いようです。

このように裾野が広がった現状問題構造ツリーでは、目的である中核問題を見つけることが困難になってしまいます。

そのため、現状問題構造ツリー作成時には、なぜの質問には注意が必要です。

生産性や稼働率などの評価基準から、なかなか脱却できない。

TOCでは、企業として本当に儲かったのか?が問われるため、一部の設備稼働率が上がろうが、作業の効率が良くなろうが、本当の儲けにつながらない改善ならば、しないほうが良いと判断します。

しかし、製造ラインでは、常に改善することを求められています。そして、その改善効果を把握するための指標として、生産性や稼働率などがあり、この指標の良し悪しで工場や職場・個人の評価が行われてきます。

そのため、TOCを導入しても経理部門からは、今月の生産性は‥‥、稼働率は‥‥、という指標が示され、「利益率が下がった」「改善目標が未達成」だと叱られてしまうことがよくあります。

更に、これらの指標が悪くなることを恐れ、この指標を上げるために必要以上の生産を行ったり、儲けにつながらない部分的な改善を行ってしまうのです。

そのため、スループットを導入する際には、今までの指標を参考にするのは良いのですが、この指標を評価基準として使わないことが大切です。

まとめ

TOCの提唱する「全体最適の活動」では、今まで常識として正しいとされてきたことも、正しくなくなる点が多々ありますので、発想の転換が必要になります。

そのためには、全体最適という言葉が何を意味しているのか?十分理解して活動することが必要です。