今回は、TOCにおける評価基準について書きます。
TOCの評価基準とは
TOCにおける評価基準は、「全体最適の考え方」がベースになっています。(全体最適については、TOCの考え方で書きましたので、お忘れの方はご確認ください)
企業の中には、利益率や生産性・稼働率・‥など、数えきれないほどの指標・評価基準が存在します。
企業で使われている評価指標として代表的なものは、生産性・能率・稼働率・歩留り・原単位などがあり、その計算に使われる数値は、経理部門が標準原価計算により算出されています。
企業でよく使われている「評価指標の一例」
TOCでは、この標準原価計算を儲けるための判断基準に使うことを、否定しています。(ただし、標準原価計算が意味をなさないということではありませんので、ご注意ください)
ここで少し、「儲け」について考えてみましょう。
儲けとは、入ってきたお金と出ていったお金の差額のことを言います。(儲け=入ってきたお金-出ていったお金)そして、この差額が+であれば黒字、-であれば赤字となります。
営利企業は、この儲けを増やすために色々な方策を考え・実施しています。実施した結果が、良かったのか?悪かったのか?を判断するための評価基準があります。
そしてこの評価基準には、大きく2つの金勘定が存在します。
- 割勘計算 : 平等な配分を計算するもの
- 損得計算 : 損か?得か?を計算するもの
この割勘計算と損得計算の違いについて、簡単さ図で示します。
TOCでは、企業の目的を「現在から将来にわたって儲け続ける」としていますので、評価方法としては損得計算を基本に考えます。
そして、この利益拡大のための計算方法が、スループット会計です。(スループット会計については、別の機会にもう少し詳しく書きます)
更に、この考え方の違いについて、簡単な例を使って示します。
事例:正しい行動が評価されない!
下図のような、5つの工程により構成される生産ラインがあります。
このラインにおけるそれぞれの工程の生産能力は、A・B・C・E工程で20個/1日、D工程では10個/1日の生産能力(ネック工程)となっています。(顧客は、生産された製品を全て買ってくれます)
それでは、下記の問1~問3に答えてください。(生産能力は変わらないものとします)
質問
問1: この生産ラインでは、日当たり何個の完成品が生産できるでしょうか?
問2: あなたがこのラインの管理者であったら、A・B・C・D・Eそれぞれの工程で日当たり何個の生産をしますか?(A工程では?,B工程では?,C工程では?,D工程では?,E工程では?)
問3: その時の各工程の能率(1日に生産した数/1日当たりの生産可能数で計算)は、どうなりますか?
回答
問1の答え: 生産能力の一番低いD工程が、この生産ラインの完成数を決めているので、1日当たり10個となります。
問2の答え: この答えは人により異なるかもしれません。
回答例1 : 「A・B・Cの3つの工程は20個/1日で、D・E工程は10個/1日」
回答例2 : 「A~E工程まで全て、10個/1日」
回答例3 : 「それ以外」 (例、A・B・C工程は15個、D・E工程は10個など)
問3の答え) 問2の答えによって答えが変わってきます。
回答例1と同じだった人は、「A・B・C・D工程の能率は100%、E工程の能率は50%」
回答例2と同じだった人は、「A・B・C・E工程の能率は50%、D工程の能率は100%」
回答例3の人は、明確な方向性(能率を最大にする、利益を最大にするなど)がなく、どっち付かずで妥協していませんか?
最後の質問
問2の答えについてお答えください。あなたは回答例1~3のどの回答が正しいと思いますか?
回答
いくら投入工程の生産量を増やしても、ネック工程であるD工程が10個/1日であるため、それ以降の工程には10個/1日以上は流れません。(出荷数はMAX10個/日です)
そのため、投入工程が20個/1日の能力があっても、10個/1日以上の投入は無意味です。
(歩留りは100%とする)であるならば、回答例2が正しい行動となります。
(全ての工程の生産量:10個/1日)
しかし、ここで問題が発生します。
本来、正しい行動である10個/1日の生産をしたD工程以外の能率は、50%に落ちてしまいます。この結果により、上司からは叱られてしまうのです。
(正しい行動が評価されない結果となります)
そして更に悪いことは、叱られないために10個/1日以上生産することは、良くないことと解かっていても、D工程以外は20個/1日の生産を行い、工程内に仕掛りの山を作ってしまうのです。
このように、評価基準が間違っていれば、人間は間違っていると解かっていても、間違った行動をとるものです。
TOCでは、正しい行動を行うために「スループット」で評価します。
(スループットについては、別途詳しく説明します)
次回は、制約条件を克服する「TOCのステップ」について書きます。