今回は、前回に引き続き「DBR」について、実際の工場に導入することを意識して書きます。

下図は、生産ラインでの基本的なDBR(ドラム・バッファ・ロープ)イメージです。

DBRの基本的なイメージ

この基本的なDBRの機能は、

【 DBRの基本機能 】
D(ドラム) : 制約工程での1日(又は数時間)の処理量=生産ラインでの1日の生産量
B(バッファ) : 制約工程が前工程の影響で、処理する製品が無くなり停止することを防ぐ
ための時間的な余裕=仕掛り
R(ロープ) : バッファの状況により、制約工程が材切れにより停止したり、仕掛量の増加
により、リードタイムが伸びないよう、投入量をコントロールする=投入指示

この「3つの機能で生産ラインを動かす」仕組みが、DBRです。

それでは、DBRを構築する手順をお教えします。

DBR導入手順

手順-1 : 導入準備

いきなり全製品・全ラインにDBRを適用しようとしても、今までと違う考え方や処理ルールなど、
直ぐに変えることは難しいものです。

そこで、DBRをどのように導入すべきか?検討する必要があります。

1.目標値・評価基準の設定。

何かを変えようとする場合は、まず「どこに向かうのか?」を明確にする必要があります。
そのために目標値を設定します。

この目標値が、今後「改善・改革活動を進める上での判断基準」となるからです。
目的は一つでも、目的を達成するための方法はいくつもあるはずです。

そのため、どの方法を取るかは「この目的達成への貢献度や、実現性・費用対効果」などで判断します。

また評価基準については、実施した施策が「良かったのか?悪かったのか?」を、判断する
ために重要なものです。しかしTOCの考え方は、
従来から使われている「部分最適の評価基準」では、正しく判断できません。

そのため、「全体最適の評価基準」に変更する必要があります。

【 全体最適での生産ラインにおける評価基準の例 】

儲け = 全スループット - 全経費(固定費)
スループット = 売り上げ金額 - 原材料費(外注費を含む)
生産リードタイム (平均値・バラツキ・最短値・最長値など)
仕掛り量、在庫量
納期遵守率
歩留り、手直し率

また制約条件工程では、

稼働率、歩留り、正規外作業率、処理量、処理スピード、段取り時間、段取り回数

などです。

このようにTOCでは、
制約工程がライン全体の能力を決めていると考えるため、制約工程については細かく
調べますが、非制約工程では、制約工程への影響があるもの以外は評価の対象にしません。

2.対象製品・対象ラインの設定

対象製品・対象ラインを設定することは、
はじめてDBRを導入する上で失敗しないための重要なポイントです。

一般的にいわれている特徴として、

【 DBRに適した製品 】

・繰返し生産される製品(リピート製品)。
・ある程度の量産製品。
・生産期間の短いもの。

【 DBRに適した生産ライン 】

・工程手順(内外作区分・作業手順んなど)が決まっている生産ライン。

となります。

逆に、適さないものは、

【 DBRに適さないもの ( → CCPMの方が適しているもの) 】

・開発品のような、生産工程・生産期間(時間)が曖昧なもの。
・造船・土木建築のような一つの製品を生産するための期間が、数ヶ月・数年かかる製品。

などです。

本来、改善対象は対策の結果として「一番効果の高い」製品を選ぶべきですが、私としては
一番取組み易い製品を、まずは選ぶべきだと思います。

その理由は、新しいことを始める時には必ず「変化への抵抗」があり、これを克服しなければ ならず、
また、早く成功体験をさせる必要があるからです。

【 変化への6つの抵抗の階層 】

1.問題を問題と思わない。
→ そんな改善をしても、意味がない。(今やらなければならないことは、もっと別な問題だ)
2.問題の解決方法に合意できない。
→ そんな方法ではなく、別な方法でやるべきだ。(JITが良い。新しい設備を購入すべきだ)
3.その方法では、問題を解決できるとは思わない。
→ そんな方法では、問題を解決できない。(仕掛が減れば、生産量は減る)
4.その方法を実行すると、新たな問題が発生する。
→ それを行うと、作業の評価が悪くなる。(効率・生産性が下がる)
5.その方法を実行するには、障害がある。
→ 実行する過程に、難しい問題が発生する。(外注先が同意しない。)
6.未知への恐れ。
→ やったことが無いから不安。(失敗したら誰が責任取るの?)

3.対象製品・対象ラインが決まったら、次は適用範囲の設定

適用範囲の設定

対象範囲の設定では、できれば生産工程の全てを対象としたいと思いますが、

【 範囲設定の意味 】
  • 早い成果を出すことで、みんなにDBRの良さを知ってもらう。
    (上司・仲間・協力会社などの協力を得る)
  • まず成功体験をさせる。
    (最初から難しいものに取組むと、失敗する可能性があり、一度失敗すると二度と取組まなくなる)
  • もし上手くいかなくても、直ぐに元に戻せる。
    (方針制約などの問題が発生しても、リスクを最小限にできる)

などの理由から、
まず取組み易い「モデルラインを設定」し、取組むことが成功への早道です。

4.実行チームメンバーの選定

モデルラインに関連する従業員・管理者の中から、

【 メンバー選定のポイント 】

・テーマとした問題を本当に解決したいと考えている人。
・従業員からの信頼が厚い人(親方的な人)。
・活動に熱意を持って取りくめる人。
・活動について発言力、権限、責任を持った管理者。

などの
「キーマン」と呼ばれる人達及び、ライン改善に情熱を持って取組むことのできる人が最適です。

5.導入研修

推進メンバーはもちろんのこと、モデルライン・モデル製品に関わる人達への「TOC教育」は、
DBR導入の目的や意味を知るとともに、みんなの協力を得るためにも必要です。

【 導入教育の主な内容 】

・ TOCの基本(全体最適の考え方)
・ スループット(正しい評価基準)
・ DBRの仕組み(体験型ゲーム)など)

ここまでが、DBR導入前に行っておく必要のある項目です。

次回は、DBR導入手順-2「制約工程を見つける」です。