今回は、私が今までTOCの導入を行ってきた経験から、思考プロセス導入時に陥りやすい問題点(落とし穴)について書きます。
TOC手法のいくつかは既存の改善手法と混同されやすく、正しい成果を出せないことがあります。特に、思考プロセス導入時の現状問題構造ツリーについては、二つの勘違いによる大きな落とし穴が存在します。
二つの勘違い
一つ目は、
ツリーの構造が「原因と結果」の関係から作られているため、QC手法の中の「連関図法」や「特性要因図」などと同じものと捉えられやすく、「なぜ?なぜ?」と質問を繰返し、ツリーが集約せずどんどん下に広がってしまい、中核問題が見つけられなくなるというものです。
連関図法
連関図法は、原因-結果、目的-手段などの関係が、複雑に絡み合っている問題について、
- これに関係すると考えられるすべての要因を抽出し、
- 自由な発言でしかも簡明に要因を表現し、
- それらの因果関係を矢印で論理的に関連付け(連関図)、
- 全貌を捉え、
- さらに重点項目を絞り込むことによって、問題解決をはかる手法です。
連関図は、いくつかの問題点とその要因間の因果関係を矢印でつないで表した図なのです。
連関図法は、適用に当たり数人のメンバーで数回にわたって図を書き改めることが推奨され、その過程で関係者に問題を明確に認識させ、メンバーのコンセンサスを得たり、発想の転換を促すことができます。
特性要因図
特性要因図は、仕事の結果に対して影響していると考えられる原因を分類して矢印で関連づけ、図に表わしたものです。
また魚の骨に似た形から、通称「魚の骨」ともいい、中心線を「背骨」そこから「大骨」「中骨」「小骨」「孫骨」と枝分かれさせ、原因を追究し、発見して行きます。
二つ目の勘違いは、現状問題構造ツリーという名称からか、全ての職場の問題点を構造化しようとして、ツリーを工程や職場別に区分して作り、横方向に広がった形になってしまい、問題構造が解かり難くなるというものです。
以下に、この二つの事例について今までの私の経験談を示します。
事例紹介
事例1「中核問題が見付けづらくなるケース」
【状況】
ある企業で、TOC思考プロセスを使って「売上を伸ばしたい」との要望があり、思考プロセス研修を実施した時のことです。研修は、研修所に3日間缶詰めで実施されました。
研修生は約20人で、そのほかに事務局と呼ばれる運営役が3人ほどいました。
進め方は、5ツリー法により進めることにしました。まずは、目的、目標、対象範囲などを明確にし、目的を阻害する要因(UDE)を挙げるところまでは順調に進みました。
しかし現状問題構造ツリーを作成するところで問題は起きました。
UDEとUDEを十分条件ツリーによる因果関係で結びつけて行く中で、UDEを引き起こす別の要因は無いか?という確認を取っている時に、「まだあるぞ!」と事務局の一人が言い出しました。
そして、その人の意見を聞き「確かにそうだ」という皆の賛同を得て、新たなUDEが付け加えられました。
しかし、この事務局の人が気を良くしたのか、あちこちのチームに首を突っ込み「この結果はナゼ起きるのか?」という質問をしだしたのです。
最終的には、「ナゼを5回以上繰り返せ!」などという指示まで出始め、ツリーは下に向かってどんどん根が生えるように伸びて広がってしまいました。
【結果】
現状問題構造ツリーは集約するのではなく、細かな問題へと拡散してしまい、中核問題が見つけられない状態になってしまいました。
この現象は、現状問題構造ツリーを作成する際に、比較的多くの企業で発生します。
【原因】
私たちは昔から、真の原因を見つける方法として「なぜを5回以上繰り返しなさい」と、教えられてきました。そのため、現状問題構造ツリーの原因と結果の関係を見ると、どうしても「その結果はナゼ発生するのか?」と考えてしまいがちなのです。
また今回の事例では、事務局をしていた方がQCの専門家であったため、「連関図法と同じだ!」と考えてしまい、中核問題を見つけるのではなく、問題が発生する要因を全て突き止めようとしてしまったのです。
【対応策】
- 現状問題構造ツリーは、下から上に向かい作成すること。
- 最終的に、ツリーの下側は原因の中核となる問題に集約されること。
- なぜなぜ問答にならないよう、注意をはらうこと。
- 必要以上に、UDEのカードを追加しないこと。
- TOCについて正しい認識を持った人の指導を仰ぐこと。
事例2「問題構造が解かりにくくなるケース」
【状況】
ある企業で、「会社の利益を倍増させる」というテーマでコンサルティング依頼を受け、そのための戦略・戦術を作成しようということで思考プロセスを使い、UDEを抽出することになりました。
この企業では、会社全体での取り組みということで「導入研修」には50人以上の参加者がいました。
また、推進チームも6チームと多いこともあり、1ヶ月の取組み内容を2日間で指導し、翌月の指導日までに実施しておくという形態で、コンサルティングを開始しました。
進め方は、5ツリー法で進めました。まず最初に、現状問題構造ツリーを作成するために、目的達成を阻害している好ましくない事実(UDE)を挙げ、大まかなツリーを作っておくことを次回コンサルティングの日までの宿題として、1回目のコンサルを終了しました。
そして、翌月のコンサルティングの日に宿題の現状問題構造ツリーを見てビックリ!なんと会議室の壁一杯に貼られた模造紙には、UDEが100以上も貼られており、まるで戦国絵巻を見るようでした。
「なぜ、このような状態になったのか?」と聞くと、「工程別に分けて問題を出した方がUDEを出しやすく、参加者も解かり易いので、チームを工程別に分け作成しました」と胸を張っていうのです。
また、このようにした方が効率的だとIEの専門家が、教えてくれたということでした。
【結果】
製造部門では効率の低下が問題視され、検査部門では品質問題、開発部門では新商品開発の問題、管理部門では納期の問題、等々、今それぞれの部門で問題視されている課題が、ずらずらと並べられているだけで、「問題構造が解からない」という結果になってしまいました。
【原因】
現状問題構造ツリーの作成を効率的に進めようと考えたため、各工程毎にUDEを出し、ツリーを完成させようとしたため、会社全体の問題ではなく、各部門が抱えている問題となってしまったからです。
【対応策】
- 現状問題構造ツリーを作成するチームは工程別に分けるのではなく、受注~出荷までの全ての部署が一つのチームを構成するか、製品群別や部門別(営業・製造・開発など)に分ける。
- 現状問題構造ツリーは、5ツリーの最初のツリーであるため、ここでの間違えはリスクが高くなるので、あまり効率を考えずに「じっくり」取組む。
まとめ
上記2件の事例は、TOCという新しい考え方を導入する際に比較的よく目にする光景です。しかし、従来から培われてきたIEやQCなどの手法を、批判しているわけではありません。
むしろ、作業改善の専門的な技術であるIEやQC手法は、私がTOCと出合う前に専門家として活動してきた技術であり、TOC活動を上手く進めるうえでも無くてはならない重要な技術であると思っています。
ここで言いたかった事は、TOCやIE・QCなどの改善手法は、それぞれ目的により使う場面や使い方が違うということです。
そして、改善手法は、場面や目的に合わせて使うことで、その力を発揮するものであるということです。