今回は、TOCディストリビューションについて書きます。
TOC_Distribution(ディストリビューション)の概要
TOCディストリビューションは、日本ではまだ、あまり知られていない方法論です。
この手法が日本であまり知られていない点の一つは、「米国と日本の流通システムの違い」によるところが、大きいのではないでしょうか。
米国の流通は、
- 拠点から配送先までの距離が長く、配送に時間がかかる
- 町から次の町までの距離が遠い
- 一度の搬送量(大型トラックでの輸送)が非常に多い
など、様々な点で日本と違います。
TOCディストリビューションとは?
TOCディストリビューションを一言で言いますと、「S-DBRのサプライチェーン版」といえます。
S-DBRは、制約が市場にあるときのDBRの仕組みですから、ディストリビューションは、これを更に顧客需要と生産工場という関係から、材料供給業者→製造業者→卸売業者→小売業者というように、サプライチェーン全体に拡大した仕組みということになります。
標準的なサプライチェーンの例
TOCディストリビューションは、全米最大の規模を誇る小売企業の「ウォルマート」が、この考え方を早くから取り入れ、大きな成果を上げている言われています。
米国では「ウォルマートに行けば、何でも揃う」と言われるように、品揃えが多く、在庫切れがほとんど無いため、遠くにある少しでも安い店をいくつも回るという日本の購入スタイルとは違い、多少値段が高くても、全て揃うウォルマートに買いに行くようです。
サプライチェーンの問題点
生産するものにより多少違いはありますが、製造業におけるサプライチェーン上の問題点を列挙します。
- 在庫回転率が非常に低い。
- 販売前に在庫が陳腐化してしまう。
- 小売業者による値引き販売が行われる。
- 工場が所要量以上の出荷をする。
- 小売業者では欠品と過剰在庫に悩まされる。
- 発注ミスが多い。
- 卸売り業者は経験により発注する。
- 卸売業者の過剰発注による返品が多発する。
- 輸送需要が月末に集中する。
これらの問題点を「思考プロセス」の現状問題構造ツリーで、構造化し、中核問題を探してみます。
注.この現状問題構造ツリー(CRT)では、例ということで、「低い」や「減っている」「多い」などの定性的な表現を使っていますが、本来は、定量的な数値を把握する必要があります。
このCRTから解かることは、サプライチェーン上の問題点の多くは、「顧客需要の不確実性である」ということになります。では、この不確実性にどのように対処したらよいのでしょうか?
もちろん、ツリーの中に書かれている「UDE-7:卸売業者は経験により発注する」が、中核問題ではないかという意見もあるでしょうが、問題が「経験による発注」となると解決方法が、「精度の高い予測をする」となってしまいます。
しかし、これでは完全に問題を解決することは出来ませんし、逆に新たな問題を引き起こします。
また、「受注予測」を行う仕組みやシステムなどもありますが、完全に解消することは出来ません。ようするに、「不確実性を予測する」という対策そのものに無理があるのです。
そこでTOCディストリビューションでは、不確実性を無くすのではなく容認するのです。不確実性が発生しても、問題とならないような対応をするということです。
TOCディストリビューションの仕組み(在庫)
TOCの不確実性への対応は、DBRやCCPMなどでも使われました「バッファ」を使います。そして、TOCディストリビューションでもバッファを使います。
では、バッファをどこに置いたらよいのでしょうか?
不確実性はサプライチェーン上のどのリンクに発生するかが解かりません。そのため、サプライチェーン全体を守る必要があります。
そこで、サプライチェーン上の各リンクに適正量のバッファを持たせます。(各リンクにバッファを持たせることで、各リンクを分断するのです)
各リンクの製品バッファの最適量は、推定総需要の最大量(過去の最大需要)と、前のリンクからの在庫補充に必要な最大時間及び、在庫補充の頻度の相関関係によります。
また総需要は時間と共に変動するので、確実な在庫補充にかかる時間内の、需要の最大量の1.5倍を持ちます。
そして、この在庫量を3分割し、安全・注意・危険ゾーンに分けることで、
安全(グリーン)ゾーン : 通常通りの補充を行う。
注意(イエロー)ゾーン : 危険ゾーンに入った時の対応策を検討する。
危険(レッド)ゾーン : 注意ゾーンで決めた対応策を実施する。
という対応をします。
しかし現状のままでこの施策を実施すると、サプライチェーン内に在庫が溢れてしまいます。
よって、補充間隔の短縮(輸送ロットの縮小や輸送間隔の短縮)や輸送方法(時間)の短縮などの改善を行い、総在庫量を出来る限り少なくします。
このような在庫補充方式をとることによって、欠品への対応は可能になりました。
しかしこれだけでは、需要の変動による過剰在庫の発生が問題として残ってしまいます。
TOCディストリビューションの仕組み(発注)
次に、需要の変動による過剰在庫を無くすため、発注の「サバ」を排除する仕組みを作ります。
発注時のサバとは、サプライチェーン上に起きるブルウイップ効果のことを指します。
ブルウイップとは、牛を追うムチのことで、手元を小さく動かすとムチの先端が大きく動く現象のことです。
ブルウイップ効果を@IT情報マネジメント用語辞典で検索しますと
多段階の需要‐供給が行われる流通過程(サプライチェーン)において、末端(需要側)から源流(供給側)に向かって需要情報が連鎖的に伝えられるうちに、発注数量が実需とは乖離(かいり)したものになってしまう現象のこと。
この例では、一つの受注がブルウイップ効果により、工場では100個の生産へと拡大されています。
更に、まとめ生産により生産期間は長くなり、全てが揃ったときには次の顧客は待ちきれず他店で購入してしまい、販売チャンスを逃してしまいます。
なお、需要以上の生産により、売れない製品があちこちに「余剰在庫」として残ってしまいます。
このような現象を無くすためには、末端の正しい販売情報を基にした生産活動が重要になります。
そのためTOCディストリビューションでは、小売店の販売情報を日々入手することで、市場の変動を敏感に察知し、完成品在庫の補充量をコントロールします。(売れた分だけ生産する)
TOCディストリビューションの全貌
このような仕組みは、日本でもコンビニエンスストアーなどでよくみます。では、製造業ではどうでしょうか?
製造業では、原材料業者、製造業者、部品業者、輸送業者、倉庫業者、卸売業者、小売業者などそれぞれが独立した企業であり、サプライチェーン全てを一つの企業内で行っていることは、ほとんどありません。そのため、それぞれがの企業がそれぞれの思惑で、利益を追求しています。
また、これらの企業が手を組み「サプライチェーン全体の利益を上げる活動」を行うことは、非常に難しいのです。
しかし今年のボジョレヌーボのように、ブドウの製造から流通・販売を一つの企業でまかない、販売価格を昨年に比べ極端に下げたメーカーなども出てきていることも事実です。
そのため、これからの日本の製造業でもサプライチェーン全体での取組みが進む可能性があります。
TOCディストリビューションでは、末端の販売実績をリアルタイムで掴むことで、ブルウイップ現象によるサバ読みを無くし、売れた分だけを補充する在庫補填システムを構築すると共に、生産ロットの最小化と搬送ロットの縮小・補充間隔の短縮などの努力により、欠品による機会損失の防止と、安全在庫の肥大防止を実現します。