前回は導入手順-2として、継続的改善の5ステップにおける、ステップ1「制約条件を特定する」を説明しました。
今回は、ステップ2「制約条件を徹底活用する」について説明します。
制約条件の徹底活用
制約条件の徹底活用とは、「制約工程の現有能力を、フルに使い切る」ということを意味しています。
このステップでは、従来から行ってきたような作業改善・品質改善・設備改善など、持っている改善技術を駆使し、制約工程の能力UPを図ります。
今までの改善と違う点は、制約工程に特化した改善を他の工程の改善を一次止めてでも行うことです。そして、長い時間をかけて行う改善ではなく、今すぐにでも出来る改善を優先することです。
ここで実施する改善は様々で、
・設備や作業の生産能力UP。
・生産工程での生産スピードUP。
・歩留り、直行率の向上によるムダの排除。
・設備の故障、チョコ停削減による生産時間増。
・搬送方法の改善による運搬時間の削減。
・仕掛り、在庫の削減による停滞時間の短縮。
・他工程からの応援による能力UP。
などなどです。
これらの改善を実現するための方法としては、
【従来から行われてきた改善手法の一例】
1.ムダ取り ‥ 作業手順、作業方法、作業環境などに含まれる「ムリ、ムラ、ムダ」を排除する。
2.5S3定 ‥ 整理・整頓・清掃・清潔・躾により、生産をスムーズに行う。
3.間詰め ‥ 工程間・設備間の距離を縮め、移動時間を少なくする。
4.多数個取り ‥ 一度に処理する量を増やす。
5.ロットまとめ ‥ 同じ品物をまとめて処理し、段取り回数(時間)を削減する。
6.遊休設備の活用 ‥ 生産性が低い、効率が悪いなどの理由で使っていない設備を、活用する。
7.物流改善 ‥ 搬送・運搬などの見直しにより、物の流れを良くする。
8.1個流し ‥ 物の流れを早くする。
9.工程変更 ‥ 作業順序の変更や生産設備の変更・改良・改造を行い、生産能力をUPする。 など。
要するに、改善手段は数えきれないほどありますが、改善手法は目的に合わせて使うものです。自分が興味あるからといって、改善手法を先に選んでから改善を考えるようなことはしないでください。
※ 個別の改善手法については、TOC講座が一段落した時点で書いてみたいと思います。
継続的改善の5ステップのステップ2では、基本的に多くの費用をかけない(現有リソースを活用する)改善を、徹底的に行います。
(設備の増強や、人を新しく雇うなど費用のかかる改善は、後のステップで行います)
本来、制約工程と言っても、今持っている能力(理論上の能力)を、100%使い切っているわけではありません。
そこで、まだ残っている能力を徹底的に使い切ることで、制約工程の能力をUPさせることを行います。
ここでは、サイクルタイム短縮、歩留り向上、稼働率向上、効率向上など今まで何回も取組んできた改善技術(IE・QC・PM・JIT・‥)を、制約工程の能力向上に集中して活用して行きます。
次に、このステップで良く使われる改善手法のいくつかを紹介します。
【 良く使われる改善手法の一例紹介 】
タイムスタディ
与えられた仕事を遂行するのに必要な時間を、何回かの観測により測定する方法です。
この手法は、
・作業方法の改善のための現状把握
・作業者への適切な仕事量の分配を行うための現状把握
・STやCTなどの、標準時間設定のための実態把握
などに使われます。
タイムスタディでは、その改善の方向性を明確にすることが重要です。また目的達成のためには、測定の対象範囲を広げることも、考慮する必要があります。
〔タイムスタディ実施手順〕
1.測定の目的を明確にする。(時間短縮・人員削減・標準時間の設定・‥)
2.観測する対象作業の条件を把握する。(製品・作業内容・設備・作業者・‥)
3.要素作業内容の洗い出しを行う。(箇条書き)
4.要素作業の測定を行う。(改善に必要な荒さ)
5.代表時間を決定する。(異常値等は排除)
人-機械分析(M-Mチャート)
人と人、人と機械、機械と機械など、複数の人や機械が共同で行っている作業では、多くの待ち時間が発生します。
人-機械分析は、 待ち時間を有効活用し、生産能力の向上を図る改善方法です。
人-機械分析は、・一人多台持ち、 ・一人多工程持ちなどの検討によく用いられます。
改善方法は、作業の状態を以下の3つに分類し、
待ち時間が目に見える形にすることで、改善のヒントを与えてくれます。
〔3つの分類〕
〔状態 記号〕
・作業 ‥ 斜線
・手待ち ‥ 空白
・準備 ‥ 点々
〔人-機械分析の実施手順〕
- 人・機械それぞれの作業について、要素作業に分解し、単位時間を調べる。
- 時間の一致する箇所を基準にし、分析表に時間軸を記入する。
- 人・機械の待ち時間の度合いを、定量的に求める。
- 作業順序や作業分担、作業方法や機械の改善点などを検討し、改善案を作る。
- 新しい作業手順を図化し、改善効果を確認する。
その他、良く使われる改善手法
・段取り改善、シングル段取り、ワンタッチ段取りなど
・ワークサンプリング、VTR分析など
・間詰め、一人生産方式、屋台方式など
・ロス分析、PM分析など
・QC7つ道具
本来TOCでは、部分最適な活動指標となりうる「稼働率・効率・生産性・‥」などは重視せず、スループット・リードタイム・仕掛り在庫などの全体最適な活動に関する指標を使います。
ただし、制約工程で使われる評価指標だけは、制約設備・制約作業などの稼働率や効率など、従来から使われている指標(部分最適に陥る可能性のある指標)も活用して行きます。
更に、このステップでは、制約工程の能力UPにつながる改善であれば改善手法は何を利用しても良く、
改善目的に適した改善手法であれば、どんどん活用すべきなのです。
【制約工程での改善で注意すべきこと】
制約条件工程の1分は、生産ライン全体の1分と同じであり、
制約工程で消費された時間は、二度と取り返すことが出来ません。
(ここでの改善効果 = 会社の利益 と考えるべきです)
そのため、社内・社外を問わず改善のプロ(コンサルタントなど)を活用し、
少しでも早く効果を出すことも貴重な選択肢です。
また、関係する仲間と「改善の達成感」を早く味わう事も、重要な要素の一つとなります。
このステップでは、DBR構築のために必要な2つの機能、「ドラム」と「バッファ」を構築します。
【ドラム】
ドラムとは、制約工程が一日で処理する量を言います。
この量は、生産ラインの1日の処理量に当たり、生産計画立案の基準となります。
この量が少なければ制約工程で材切れが発生し、生産量が低下します。
また、多過ぎれば仕掛が増え、リードタイムが長くなることで、納期を脅かします。
【バッファ】
バッファとは、制約工程が前工程のトラブルなどの影響で材切れを起こし、
制約工程が止まることが無いようにするための時間的余裕です。バッファは、目で見ると仕掛りそのものですが、数ではなく時間で管理されます。
バッファが少なければ、待ち時間は少なくなりますが、材切れによる生産量低下の危険性があります。
また、多過ぎれば仕掛りが増え、リードタイムは長くなりムダが発生し、スループットを低下させます。
なおバッファの設定は、前工程にトラブルが起きても、制約工程に材切れが起きない程度の仕掛量となりますが、「制約工程の1日の処理量×(投入工程~制約工程までのリードタイム)」が一つの目安となります。
次回は導入手順-4、継続的改善の5ステップのステップ3「非制約条件を制約条件に従わせる」について書きます。