前回までの2回で、抵抗(1):「対応している問題を問題として認めない」、抵抗(2):「解決策の方向性に同意できない」という2つの抵抗を取り除くことが出来ました。

今回は、二つの抵抗を乗越えたT係長に、3番目の抵抗が降りかかります。

三番目の抵抗(解決策が問題を解決するとは思わない)

やっとTOCコンサルタントを入れ、会社を改革することに同意してくれた上司でしたが、社長を納得させるだけの自信がまだ無いようです。

そこでT係長は、上司に「一緒に社長へ提案しましょう」と声をかけました。

すると上司は、「TOCコンサルタントを入れるのは良いが、本当にそれで問題を解決できるのか?」「今回の目的は、原価を下げることなんだ!」「そもそもTOCは、従来型の原価計算を否定しているんだろ!」「それでは原価を下げることが出来ないじゃないか!」と言ってきました。


T係長は、確かにセミナーでコンサルタントが、「TOCは、従来型の原価計算を否定している」と、言っていたことを思い出しました。

そして、今回の目的は「原価を下げ、他社との値下げ競争に勝つこと」であるということを、再度思い返しどうしたらよいのだろう?と悩んでしまいました。

TOCへの疑問

T係長は、TOCの原価に関する疑問を列記してみることにしました。

  • TOCは本当に、原価計算を否定しているのだろうか?
  • TOCは、原価計算を使わないとしたら、どのようにして儲けを計算するのか?
  • 本当にTOC手法では、原価を下げられないのだろうか?
  • だとしたら、どうやって他社に勝てるのか?

などなど、考えれば考えるほど解からなくなってきました。

そこでT係長は、TOCのコンサルタントに直接電話をして、この疑問をぶつけてみました。

すると、TOCのコンサルタントは「結果として、原価を下げることは出来ます」しかし、「原価を下げることが、本来の目的なのですか?」と聞き返してきました。

そこでT係長は、「はい、そうです!」「原価を下げて、他社との値下げ競争に勝つためです!」と、胸を張って答えました。

その答えに対しTOCコンサルタントは、「原価を下げる」ことも、「値下げをする」ことも手段なのではないですか?本来の目的は、企業が「現在から将来にわたって儲け続ける」ことですよね!

だとしたら、原価を下げることだけにとらわれてはいけないのではないですか?儲けるための方法にはいろいろありますよね。

原価低減は、製造現場が直接的に手を付けられる利益向上の方法であることは事実です。

しかし値下げは、この製造現場が必死に改善を行い得た利益を捨てることで、販売量を増やし(維持し)利益を得ようとするもので、どちらかというと後ろ向きな手段です。

更に、値下げは企業間競争を泥沼化させ、やがて赤字での製品販売に至り、事業からの撤退・倒産という最悪な結果をもたらすことも多々あります。

そのため、値下げは目的を達成するための最終手段であると考えるべきで、「企業存続・発展」のために、何が出来るかをもっと考えるべきです!といいました。

「では、どのようにしたら良いのですか?」と聞いたT係長に、TOCコンサルタントは1つの例を挙げて説明しました。

原価を下げるための「1つの例」

まず、「標準原価計算を否定している」という言葉は、税務署や株主に会社の業態を示す義務としての開示資料として必要であり「標準原価計算」をするなというわけではありません。

しかし、この標準原価計算から作成される個別原価のデータを基に、「赤字製品だから生産をしない。」「古い設備は生産性が低いから使わない」「効率を上げるためにはまとめ生産する」などの判断を、安易にしてはいけないということです。(スループットについては、もう一度確認してみてください)

そして、その理由の多くは固定費の振り分け(割賦)にあります。

ご存知のように、製品価格は「利益と原価」に分けられ、原価は更に「変動費と固定費」に分かられます。

変動費とは、

原材料や部品など「1つの製品を生産するために、必ず必要となる費用」を示します。

固定費とは、

従業員の給与や設備の償却費など「モノを生産しても、しなくても掛かる費用」を示します。

そして変動費は、原価の中で1個の製品を生産するに当たり、明確な金額が分かりますが、固定費については、明確な割り振りが出来ません。

そのため固定費は、いろいろな考え方で製品ごとに割り当てられます。これを「割賦」と呼びます。

しかし、この割賦をいくら細かく製品別に分けても、1個を生産するために本当に必要とされた費用として割り振ることは難しいのです。

そこでTOCでは、固定費を製品別に割り振ることはせず、出て行くお金として合計額で考えます。

そしてTOCでの改善順序は、

①スループットを増やす。(売値から資材費用を引いた差額)

②資材費用を減らす。(変動費)

③業務費用を増やさない。(固定費)

という順序で行うのです。

ですから、まず現有人員・現有設備で、もっと売上を伸ばせないか?と考えるべきです。

そのためには、今まで赤字だから生産しないとか、できるだけ量を減らすなどの判断をしているものは無いか?見直すことも一つの方法です。

要するに、売上を増やすためには「何もしなくても固定費はかかる」のだから、「少しでも入る金を増やす方が得」であると考えるべきなのです。

(ただし、売値が資材費用より安いものは、そのままでは赤字が増えるため他の方法を考えたうえで、生産の必要性を判断します)

そして売上を伸ばす以外には、「ムダな費用を使わない」ということです。

例えば、

  • 資材購入単位の小ロット化。(材料を買ってから、売り上げられるまでの時間を短くする)
  • 歩留り・直行率を上げる。(不良になる製品を減らす、手直し費用を減らす)
  • ネック工程以外の生産職場は、手余りでも必要以上の生産を行わない。(ムダを増やさない)

このような取組みを行うことで、原価は必然的に下がってきます。

T係長は、この話を聞いて「確かに自社内には、このような問題が山積している」と思いました。

そして、「本当の利益は顧客にモノを売ることで得られる」という、基本的な考え方を再認識し、改善に使う原価表(変動費と固定費をハッキリ分けたもの)を作成し、我々のできる原価低減の範囲では限界があることを示すことにしました。

後日T係長は、この原価表を上司に示し、製造内だけの原価低減活動だけでは限界があること、営業や開発などによる拡販活動が必要なことを説明しました。

そして、そのためには職制を超えたプロジェクト活動として進めることを提案し、上司の同意を得ました。

まとめ

今回は、3番目の抵抗として「解決策が問題を解決するとは思わない」という抵抗について書きました。

そして、この問題を解決するためには、具体的な進め方を提示しなければ納得してもらえないということを、理解してもらえたでしょうか?

TOCは、今までの考え方と大きく違う点(ある意味、逆の考え方をする点)があります。

そのため、具体的な例などを示し納得してもらうことが必要になります。そしてこの時、できるだけシンプルに説明することを心掛けるようにしてください。

特に、スループットに関することは要注意です。

・固定費(人件費その他)は、生産ラインが動いても動かなくてもかかる費用である。

・購入済みの設備は、既に支払われた費用のため、生産量には関係しない。

・スループット会計では、どちらが損か?得か?を判断するための資料を提供する。

・制約が市場にある場合は、原価低減が最優先課題であると考えてはならない。

・TOC活動を進める場合、職制を横断した組織が必要である。

※ スループット会計については、細かな部分の議論に入らないよう注意することが必要です。

ここまで書いてきました1番目の抵抗から3番目の抵抗は、新しいものを導入する前に発生することが多く、上司やトップを説得する場合によく発生します。

そして次回からの抵抗は、導入することは決まり、メンバーを編成して「もっと具体的に進めようとする場合の抵抗(実務担当者からの抵抗)」として多く発生します。