前回は、CCPMによるスケジューリングとして、ネットワークの作成について書きました。

今回は、CCPMによるスケジューリングの続きとして、スケジューリングの特徴「サバ取り」について、その理由を書きます。

プロジェクト業務で考慮すべきこと

プロジェクト業務のほとんどは、人が中心となる業務であることは、前回述べました。

そしてプロジェクトでは、人が中心となる作業であるがために、多くの不確実性があり、この不確実性に対処するために、多くの時間的余裕(サバ)を入れています。

しかしCCPMでは、このサバが、実は「プロジェクトを危険にさらしている」と考え、計画段階から、「サバ取り」を行います。

ではまず、プロジェクトを守るために入れられたサバを、CCPMでは、「なぜ、ここまでしてサバを取ろうとするのか?」について説明します。

タスクに含まれる「サバ」を取る理由

当たり前ですが、サバが入ればプロジェクト期間は長くなります。しかしCCPMでは、プロジェクト期間が長くなるからというだけで、「サバ」を取る訳ではありません。

CCPMでサバを取る理由は、プロジェクト業務で発生する問題の多くが、時間的余裕を持っている時の「人間行動の問題」に起因する部分が、非常に大きいからです。

《 時間的な余裕を持っている時の「人間行動の問題」 》

1)学生症候群:student syndrome

皆さんも、小学生の時に経験したことがあるのではないでしょうか?

長い(30日としましょう)夏休みに出された宿題を、夏休み初日から始めれば10日で終わるが、20日も余裕があるから「後でやればいい」と先延ばしにし、残りが10日になってしまったので、慌てて宿題に取組むと、必要なもの(感想文を書くための本、原稿用紙など)が無いとか、突然、友達が遊びに来て予定通り宿題が出来なくなり、結局、間に合わなくなる。

こんな現象です。

学生症候群発生の原理

著書「Critical Chain」の中では、下記のように説明されています。

<P189~P190の抜粋>
「宿題をもらった時、二週間では足りないと抗議して、提出日を先に延ばしてもらいました。だけど時間がもっと必要だとあれだけ大騒ぎしたあとで、すぐに宿題に取りかかった人がこの中に何人いるでしょうか。おそらく、一人もいないと思います」
「学生症候群です」
「セーフティーが必要だと大騒ぎする。そして、セーフティーをもらう。時間的に余裕ができる。でも時間的に余裕ができたからといって、すぐに作業を始めない。じゃ、いつになったら作業に取りかかるのか。結局、ぎりぎり最後になるまで始めないんです。それが人間というものです。人間だからしょうがないんです」
「だけど実際に作業を始めるまで、問題があるかどうかはわからない」
「もし、作業を開始して何か問題があることに気づくと、今度は慌てて働くことになる。しかし、とってあったはずのセーフティーはとうに使い果たしているから、結局、作業は遅れてしまう‥‥」

人間は、納期のある仕事に対し、時間的な余裕を感じると「後でやっても間に合う」と考え、すぐに着手しないことが多いようです。

そのため、時間的余裕を計画的に組み込むことは、作業の遅れを引き起こす原因になります。(ただし、時間的余裕が不要だという訳ではありません。この点については、別途説明します)

2)マルチタスク(業務の掛け持ち)

マルチタスクという言葉は、コンピュータのOS(オペレーティングシステム)の処理として有名ですが、いくつもの処理を同時に行うことを意味します。(この処理を如何に多く、速く、同時に出来るか?で、機能の高さの比較がされています)

仕事では、いくつもの仕事を同時にこなすことを意味しており、これが出来る人は「凄い人(出来る人)」として、「良い意味」で使われている言葉です。

しかし如何に凄い人でも、時を止めて仕事を見ると、同時に二つの仕事をしている訳ではありません。要するに、一つの仕事を細切れにして「多くの仕事を一つひとつ、少しずつ進めている」のです。

マルチタスクを IT用語辞典e-words で検索しますと

マルチタスクとは、1台のコンピュータで同時に複数の処理を並行して行なうOSの機能。
CPUの処理時間を非常に短い単位に分割し、複数のアプリケーションソフトに順番に割り当てることによって、複数の処理を同時に行っているようにみせているため、多くのアプリケーションソフトを同時に起動すれば、その分だけ個々のアプリケーションソフトの動作は遅くなる。

このように、いくつもの仕事を同時に行うことは「コンピュータ」でも、処理時間が長くなるのです。

例えば、3つのタスクがあり、各タスクの必要期間は、それぞれ9日、段取り時間1日/1回とすると、3つのタスクが全て終了するには、30日後となります。

① シングルタスクで作業をした場合

シングルタスクで作業した場合の終了時期

シングルタスクによるタスクの終了時期は、タスクA:10日後、 タスクB:20日後、 タスクC:30日後 となります。

また、各タスクのリードタイム(タスクの開始から終了までの期間)は、10日間となります。

② マルチタスクで作業した場合

マルチタスクで作業した場合の終了時期

マルチタスクによるタスクの終了時期は、タスクA:22日後、 タスクB:27.5日後、 タスクC:33日後 となります。

また、正味作業時間は同じですが、作業が2回に分けられたことにより、リードタイムは2倍になり、段取り時間(準備時間、切り替え時間)も2倍になります。

著書「Critical Chain」の中では、下記のように説明されています。

<P192~P193の抜粋>
「例えば、ステップA、B、Cという三つのステップを抱える作業員がいるとしよう。

一つひとつのステップは、それぞれ異なるプロジェクトに属する場合も同じプロジェクトに属する場合もある。

だが、それはどうでもいい。各ステップは通しで10日かかる。

この作業員がひとつのステップをこなしてから次のステップに移るとしたら、各ステップのリードタイムは10日間になるということだ。

例えば、この作業員がステップBを開始したら、その10日後にはステップBは次の作業員に作業が引き継がれる。

しかし、もしこの作業員にプレッシャーがかかっていたら、彼は何人もの人からの要求に同時に応じようとする。

そうすると、彼はひとつのステップをちょっとやっては、次のステップに移る。

例えば、ひとつのステップを五日間作業して、次のステップに移ってしまう。そうなると作業の順番は、A、B、C、A、B、Cとなる。

この場合の各ステップのリードタイムはどうなると思うかな」「リードタイムは、倍になります。作業の掛け持ちが好ましくないのはわかっていましたが、こんなにとは思っていませんでした。

それに段取り時間も無駄になります。

そんなこと、考慮さえしていませんでした」「リードタイムにとって、最大の敵はおそらく作業の掛け持ちだろう」

プロジェクトにおけるマルティタスク(作業の掛け持ち)は、「リソース(作業者や設備など)の不足によりしかたない」と考えている方は多いと思いますが、それは「納期を犠牲にしている」という結果につながっていることを、忘れないで下さい。

そして、「忙しいから、リソースが足りないから、マルチタスクを行う」という方が多いようですが、本来、時間的な余裕が無ければ、シングルタスクで行うべきなのです。

また、世の中では、良いマルチタスクと悪いマルチタスクに分けようとしている方もおられますが、基本的にマルティタスクは「悪い結果」を生みます。

もし良いマルチタスクと悪いマルチタスクがあるとすれば、それはタスクの切り分け法の良し悪しではないでしょうか。(タスクの切り分け法については、別途説明したいと思います)

3)早期完了の未報告

「早期完了の未報告」とは、どんなことを言っているのか解からない方も多いと思います。

例えば、作業の見積り期間が10日間のタスクがあるとします。

作業者がこの作業を始め順調に進んだ結果、8日間で全ての作業が終わり「作業終了」を報告したとすると、次のステップの担当者は2日間早く出来たのだから、2日間早く作業に着手するかというと、そうではなく「学生症候群」のような行動をとるのではないでしょうか。

また、計画担当者は「なんだ8日間で出来るんだ」と、次回の計画からは、同じ作業を8日間で計画するでしょう。

しかし、10日間の予定を8日間で終わらせた作業者は、この短縮により報酬が増えるわけではなく、逆に、次回からの計画時間を縮められることになってしまいます。

そうであれば、作業者は2日間作業が早く終わっても「終了報告せず」、見直しをしたり、丁寧な仕上作業をして、2日間を使い切るでしょう。

(2日間を丁寧な仕上に費やしても、計画通り終了しているのですから、怒られることはないからです)

これが「早期完了の未報告」と呼ばれるものです。

早期完了の未報告

著書「Critical Chain」の中では、下記のように説明されています。

<P183~P184の抜粋>
「この二つのボックスは、プロジェクトの中のステップを表わす。

二つのステップはつながっている。各ステップの見積り時間はそれぞれ10日。

ところが最初のステップに12日かかったとしよう。ということは、二番目のステップは予定より作業開始が2日遅れることになる。当たり前だ。

では逆に、最初のステップが予定より早く8日で作業を終えたとしたらどうなるかね」「もともと予定していたタイミングでスタートします」「どうしてだね」「予定より早く作業を終わらせても、最初のステップはそれを報告しないからです。

現状の仕組みでは、作業を早く終わらせても何もご褒美はもらえないんです。いやそれどころか、ペナルティーが課されます」「もし作業を早く終えたら、上はできるものだと思って、次からは時間を短縮しろとプレッシャーをかけてきます。

自分だけではなく同じような仕事をしている周りの人にも同じようなプレッシャーがかけられて、みんなから恨みを買うことになりかねません」「だったら、どうするんだい」「適当に時間を潰すんです。作業を早く終えても、隠す方法はいくらでもあります。大丈夫です」

つまり作業が早く終わっても、それは報告されない。

たとえ報告されたとしても、早く終わった分の時間は、次のステップで生かされることはなく。ただ、浪費されるだけなのです。

CCPMでは、学生症候群、マルチタスク、早期発見の未報告などの、リードタイムを長期化させる要因から、プロジェクトを守るために「3種類のバッファ」を使います。

この3種類のバッファについては、次回「CCPMによるスケジューリングとバッファ」で説明します。