今回から数回に分け、TOCを導入するまでに発生する問題や障害及び、これらの課題を乗越える方法(対応策)について、架空の会社を想定しストーリー的に書きます。

内容としては、TOC導入を社長に決断させるところまでを、変化への抵抗として6つの階層に分け、話しを進めます。

<変化への抵抗>

  1. 対応している問題を問題として認めない。
  2. 解決策の方向性に同意できない。
  3. 解決策が問題を解決するとは思わない。
  4. この解決策は、もし実行すると、マイナスの影響を引き起こしてしまう。
  5. 提案されている解決策の実行を妨げる障害がある。
  6. その解決策を実行した結果起こる、未知のことへの恐怖感

ストーリーの設定

中堅企業に勤める一人のスタッフ(T係長)は、海外企業の進出による製品価格の下落に対応すべく、IEなどの従来改善技法を駆使し原価低減に必死に取組んでいた。

しかし、稼働率や生産性など改善効果(計算上の効果)は出ているはずなのに、会社の状況は一向に良くなっておらず悩んでいました。

改善効果への疑問

そんな折、T係長はTOC(制約条件の理論)という方法論があることを知り、外部のセミナーに参加したことで、今までの自分の改善に対する考え方を、大きく変えなければならないことに気付きました。

TOCとの出会い

T係長は、TOCのセミナーに参加して「制約条件以外をいくら改善しても意味が無い!」という話を聞き、今まで自分が一生懸命改善しても、効果が計算結果ほど出ない理由に気づきました。

そして、この考え方が自社には必要であり、早速にTOCを導入しようと、上司に提言するところからストーリーは始まります。

一番目の抵抗(対応している問題を問題として認めない)

T係長は、早速上司に「自社にはTOCの考え方が必要です!」と提言しました。

変化への最初の抵抗

しかし、上司からは「新しい改善の考え方」が必要なのではなく、「全ての職場で効率を上げ、少しでも原価を下げることが利益につながるんだ!」と、一方的にTOC導入に反対されてしまいました。

今回、「今までのような改善の進め方ではダメなんです!」とT課長が提言しているのに対し、上司は、「改善方法の問題ではなく、改善努力が足らないんだ!」と叱りました。

このように、提言した問題に対し、そのことを問題として認識してくれない状態が、変化への最初の抵抗となります。

対応策

そこでT係長は、上司にTOCの考え方をよく理解してもらうため、TOCのセミナーで配られた資料をもとに、自社の例による資料を作成し説明することにしました。

工程 改善内容 計算上の効果 実際の効果
まとめて材料買うことで、一個当たりの購入費用を安く出来たぞ! 材料1個当たり3円安くなった。 一個当たりの材料費は安くなったが、キャッシュは減り、倉庫が狭くなり積み替えや材料探しなどの倉庫作業が増えた。
ロットを大きくしたことで、設備稼働率が上がったぞ! 設備稼働率が65%だったものが75%に向上した。 設備稼働率は上がったが、物の流れが遅くなり納期遅れが増えた。
次工程前の仕掛が増え、積替えや製品探しなどの付帯作業が増えた。
多台持ちをしたことで、作業者の効率が上がったぞ! 作業者の作業効率が70%から90%に向上した。
(作業者0.2人分の削減ができた)
作業者の作業効率は上がったが、0.2人分の削減効果は表れない。
不良が増えた。
物の流れが遅くなった。
ライン化したことで、組立時間を短縮できたぞ! 時間当たりの組立数量が10%向上した。 時間当たりの組立数量は増えたが、材料待ちが増えた。
完成品の数は変わらなかった。


この資料により、それぞれの部署が勝手に改善を行った結果が、算出された効果の合計(部分最適の合計)と、会社全体としてみた時の効果(全体最適の結果)では、一致しないことを詳しく説明しました。

その結果、上司は「全ての部署がバラバラな改善方針で、改善を進めても利益につながらない」ということについては、理解をしてくれました。

これにより、変化への抵抗の六階層の1番目である「対応している問題を、問題として認めない」については、クリアーすることができました。

しかし、1番目の階層をクリアーしたのもつかの間、早くも2番目の階層の抵抗を受けることになります。

この2番目の階層については、次回説明します。

まとめ

「人間は、変化を嫌がるものです。」

今まで当たり前のようにやってきたことを、「変える」のは面倒であり、嫌なものなのです。

なぜならば、せっかく慣れた仕事の手順を変えなければならず、自分の仕事は増えるのではないか?自分の仕事が無くなってしまうのではないか?など、被害者的な考え方が先行してしまうからなのです。

そのため、人間は変化が起きないように、六つの階層(抵抗の六階層)による抵抗を示すのです。

そして今回書きました、一番目の抵抗「対応している問題を、問題として認めない」は、新しいことを始めようとすると、「今まであるものを使えば良いじゃないか!」という、「コミュニケーションを阻む五つの心」の中の、2)横着心が心の奥で働いてしまうからです。

そのため、自分の提言が通るようにするためには、先を読み、相手が納得せざるを得ないような事前準備を十分にし、説得することが重要なのです。